職業としての小説家 (2015/9/11)

文字数 899文字

2015/9/17  第1刷発行
著者:村上春樹
スイッチ・パブリッシング



村上春樹さんの自伝エッセイです、小説家としての矜持とともに
彼の人生の息遣いも感じられます。
以下のような魅力的な章タイトルが連なっています。

1.小説家は寛容な人種なのか
2.小説家になった頃
3.文学賞について
4.オリジナリティについて
5.さて、なにを書けばいいのか?
6.時間を味方につけるー長編小説を書くこと
7.どこまでも個人的でフィジカルな営み
8.学校について
9.どんな人物を登場させようか?
10.誰のために書くのか?
11.海外へ出ていく。新しいフロンティア
12.物語のあるところ・河合隼雄先生の思い出

無論彼の言うとおりにしても小説家になれるわけでもないのですが、
村上主義者にはバイブルになるかもしれません。
ひとつひとつの小説作法が彼らしいのは予想した通りで、
そして、それは誰も真似できないだろうと思わせる小癪さも予想どおりです。

代表的な彼の秘策を1個だけご披露します:
彼の文章は翻訳したようだという批判があります。
実はその通りなのです。
初小説の「風の歌を聴け」で彼が挑戦したのは小説言語や純文学体制から
最も遠い位置にある日本語で小説を語ることだったそうです。
そのために採用した方法が、小説を英文で書くことでした。
オリヴェッティの英文タイプライター(これは僕が最初に勤めた努めた企業の商品)で
どうしても気に入らなかった初稿を英文で書き直したそうです。
一度、慣れ親しんだ日本がから離れて語彙の少ない英文で小説を書いたのです。
アゴタ・クリストフのフランス語小説と同様に、言葉をシンプルに、そのコンビネーションで感情・意思を表現しました。
そのあともう一度その英文から日本語に翻訳(移植と表現している)したところ、
彼独特の文体の芽をつかみ取ったようです。
彼の余分な修飾を排した動きの良い文体はこのようなプロセスで誕生したのです。

愉快なのは、本書が小説とは違って結構密度の濃い文体で構成されていることです。
それでもその中に村上文体のニュアンスを忍び込ませようと努力している本書に
とても好感が持てました。
村上主義者必見の指南書ですね、やはり。
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