くもをさがす (2023/5/13)

文字数 1,030文字

2023年4月20日 初版印刷 4月30日初版発行 
著者:西加奈子
河出書房新社


今の世の中、三人に一人は癌に罹るという。
ぼくの飲み仲間五人のうち三人は癌を経験している、そしてサバイブしている。
という現状を確認したうえで、なおかつ西加奈子さん自身の癌治療ノンフィクションを手にしたのは、彼女の癌を象徴とした生と死に関する心の裡を拝見したかったからであり、無論 西加奈子テイストの初ノンフィクションにも大いに興味があったからでもある。
ぼく自身、48歳の時に直腸がん手術を受けていたから猶更の想いもあった。

著者の癌はトリプルネガティブの乳がん、再発率も高いため抗がん剤投与で腫瘍を小さくした後 両乳房切除の治療方法が選択される。バンクーバーに住んでいるため治療費は一切かからないとはいえ言葉がうまく通じない、時を同じくコロナパンデミックになり、医療機関そのものが逼迫していたのは日本と同じ状況だった、著者45歳 海外での癌治療始末記である。

ノンフィクションは検査で癌が見つかったところから、切除手術・法sh線治療が終わるまで本人の日記をベースにしながら、著者お得意の関西弁で飄々と治療過程を書き記していく。
背景に一貫するのはバンクーバーがお気に入りだということ、精神的にも物理的にも大らかな街と、それと同期したような人々、
世界各国のルーツを有する友人たちそれぞれとのエピソードに著者の愛情があふれ出ている。
治療の間 何かにつけて助けてもらった多くの友人が個性的なのは著者がそうだからなのだろう、彼らと著者のやり取りひつつひとつがノンフィクションのテーマの重さを和らげてくれる、もしチャンスがあればバンクーバーに行ってみんなに逢いたいとすら思った。

当然のことだが、数多くの医療従事者が登場する、ファミリードクター、看護師、検査技師、救急医、外科医、放射線治療士、彼ら彼女らに関西弁を喋らせているのは著者の深い愛情の表れなのか? おかげで著者と彼らの会話に内容がいかに深刻であってもそこに和みがあった。

西加奈子のノンフィクションであるからには、治療の記録と同時に貴重な洞察をあちこちに垣間見る。先に述べたカナダ・日本文化比較は全編を貫いて多面的に考察してくれる。
「日本人には情があり、カナダ人には愛がある」の言葉がなかでもぼくの記憶に残ることになった。

著者がバンクーバーに移住していたこと、まして癌治療したことなどまたったく知らなかった、これから西加奈子に注目してみよう。
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