小説 火の鳥 大地編 (2021/4/10)

文字数 966文字

2021年3月30日 第1刷発行
桜庭一樹
朝日新聞出版



「火の鳥」は手塚治虫のライフワーク作として作者没時が完結と言われた(そうだ)。
数多くの「編」が世に送り出されている(そうだ)が僕はまるで詳しくない。実はどの一編にも接していない。
手塚作品に触れないまま少年時代を過ごすことなどできない時代に生きた身としては肩身が狭すぎるほど、ある時期から僕は漫画から遠ざかった。
もちろん、そのことに悔いはないが手塚作品の噂を聞き及ぶごとに、少しだけジェラシーを感じていたことも事実だった。

一方小説が好きだ、こうやって誰にも望まれてもいないのにブックレビューを書くくらいにだ。
そんな小説好きにもご贔屓作家がいる、本作の桜庭一樹さんもそのうちのお一人、通常小説はほぼすべて読み今も手元に置いてある。
つまるところ、本作は桜庭一樹ありきで手にした小説だという、長ったらしい前置きだ。

漫画のノベライゼーションかと思っていたらそうではない、本作は手塚氏のシノプシスだけが残されていたのを、桜庭氏が小説として再現した、とても稀な挑戦かもしれないし、とんでもない野暮な試みだったのかもしれない。
本作で「火の鳥」はタイムマシーンとしての機能を果たす設定になっている。
物語りの時代設定は日清戦争から太平洋戦争までの日本の近代化から隆盛そして敗北に至るまでのごく近い過去。
特に戦争での勝利・敗北を分ける分岐点に立ち戻ることで自分の野望を達成しようとする登場人物が何通りにも描かれている。何通りもの歴史が本書では繰り返される。
その度ごとに、似たような描写が少しづつ変化して語られる、それも極めて勤勉に精緻に。
上下巻のほとんどは、したがって繰り返し、読書の忍耐が問われる。
桜庭氏は何が言いたいのか・・・という疑問と同時に、文体と文章、いや言葉すらが幼稚性を帯びている不快感。
桜庭氏がジョブナイルの名手でもあることを思いだし、ちょっぴり後悔を覚えだしてしまった。
おなじシチュエーションが6~7回繰り返される(正確に数えてはいない)に至り、歴史クイズにはまった気にもなってくる・・・どっちが正解?
最終章できらりと桜庭節が閃いていたが、あとは無理やりの漫画小説だった。
もっと言えば、
老舗メディアの周年事業の傲岸、天才作家遺産の濫用、そして直木賞作家のブランド誤用の罪は大きかった。
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