R帝国 (2017/10/29)

文字数 1,409文字

2017年8月25日 初版発行、2017年8月30日 再版発行
著者:中村文則
中央公論新社



名作「1984」を思い起こさせる。
「平成の1984」と言ってもいいかな。
無論、村上さんの「1Q84(2009~10年)」ではなく、
ジョ-ジ・オーウェルのそれ(1949年)だけど。

「 朝、目が覚めると戦争が始まっていた。」から始まる島国R帝国における与党国家党の策謀を描くディストピア小説。
物語は、国家党幹部、野党党首秘書、一般市民、抵抗グループらの交流の中で人間の本質に迫る。
R帝国と同盟関係のA共和国、隣国の野蛮なB国、YG宗国から分離したY宗国とG宗国、
小競り合いの絶えないC帝国がその周辺舞台。
R帝国(日本の近未来だろう)では国家党の全体主義があからさまに取り繕われている、例えば与党国家党のほかにも野党が6党あるが、議員数は15名、議員総数は1485名。R帝国は民主主義であることの証明として残された野党、無論お情けのお飾り。
移民受入は貧困層(国民の84%)の優越感をもたらす最下層として、また低賃金労働力として、またテロを誘導して憎しみを煽ることに活用する。
国家党応援のネット・サポーターが反対陣営を徹底的に炎上させる。
言論の自由は無論存在しない、過去の歴史も捏造され、第二次世界大戦や沖縄戦などは小説だったとされる、それすらも消滅している。
そのほかにも、笑えない皮肉な指摘が満載だ 例えば:
■テレビによく出るコメンテーターたちは国家党幹部たちとよく食事をしている。
■移民たちの住所に行けば実在の移民のアニメ化した姿を射撃するゲーム「移民GO」。
■国家党は選挙の際に、水面下で手を組んだグループと対立関係を演出し本当の野党を埋没させ、 選挙の後でそのグループを巧妙に吸収することで勢力拡大した。
■国家党が統治のために利用したのがR教会、その教理はシンプル;
  ①神と聖書に絶対服従、自分の考えを放棄する
  ②政治は神授、神からその権利を授かっている
  ③下は上に絶対服従
  ④男が働き女は家を守り健康な男子を生む
  ⑤女性は肌の露出を控える
  ⑥男は経済力の限り妻以外の妾を娶れる
  ⑦戦地で命を懸けたものは集合神の一体となれる
  ⑧教会のトップは絶対に男だけ
  などなど、かってどこかの帝国できいたことのある教理ばかりだ。

結末は、ディストピア小説らしく一片の希望もむしり取られてしまう。
しかしながら、ジョージ・オーウェルの「1984」が共産主義の恐怖を予見したように
本作品は全体主義の今そこにある恐怖を指し示してくれる。
ここで作者 中村文則さんの「あとがき」から一部を抜粋しておく:
《 現実が物語の中で「小説」で表現されるという、ある意味わかりやすい手法をとったのは、逆の発想として、今僕たちが住むこの世界の続きが、この小説の行く先、明るいものにするか、暗いものにするか、決める構図にしたかったからだった。
僕たちの世界の今後の展開が、この小説の世界の未来を決めるという風に。
この小説の全体からでも、たとえ一部からでも、何かを感じてくれたら作者としては嬉しい。尚、沖縄戦にまつわる描写は、現地取材にもとづいている。世界は今後、ますます生き難いものになっていくかもしれない。でも希望は捨てないように。共に生きましょう。》

中村文則さん、すでに多数の翻訳作品があり、
もしかして近々日本人ノーベル文学賞の大穴かもしれない。
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