原民喜 死と愛と孤独の肖像 (2018/8/29)

文字数 782文字

2018年7月20日 第1刷発行
著者:梯久美子
岩波新書



梯久美子さんの評伝ノンフィクションは欠かさないようにしている。
「散るぞ悲しき」、「狂う人」に続く本作だが、原民喜さんについては全く知らなかった、
猛反省しているところだ。
「原民喜 (はらたみき)」:
詩人、作家 1905年広島生まれ、慶應義塾大学文学部英文科卒、小学生のころから小説家志望、
1944年精神的支柱であった妻・貞恵病没、1945年疎開先の広島で原爆被爆、1951年鉄道自殺。
被爆の状況を作家として記した「夏の花」は原爆文学として高い評価を得ている。

本書のサブタイトルになっている「死、愛、孤独」については原の「鎮魂歌」にこう記されている・・・
《死について 死は僕を生長させた
 愛について 愛は僕を持続させた
 孤独について 孤独は僕を僕にした》
本社の章立ても    
Ⅰ 死の章 :極度の人見知り(不愛想)の原因となった父と姉の死、
Ⅱ 愛の章 :そんな原を愛し支えた妻貞恵、
Ⅲ 孤独の章 :妻の死と原爆の惨状から抜けきれなかった悲しみ、

裕福な実家からの援助で奔放な作家生活を送った戦前、一転して極貧生活の中での執筆の戦後。
原作品の特徴はすべて作者の日常経験を素材にしていること、日本的私小説ともいえるがほとんどフィクション操作はなく、自分の心の奥深くに立ち入って言葉に昇華していく。
著者はその検証を「夏の花」で僕に示してくれる。

梯評伝といえば、綿密な資料調査と取材から、今まで明るみにされなかった事実や、想定が最後に用意されてきたものだ。
今作では原民喜研究家によって既に取り上げられてきた遠藤周作との友情に切り込む。
遠藤と原と一人の少女との3人の交流も明らかになる、いつものようにちょっぴりサスペンスも楽しみことができる。

原民喜という作家を教えてくれ、彼が書き留めた原爆の悲惨を改めて訴えた本作に感謝する。
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