家裁調査官・庵原かのん (2022/9/20)

文字数 976文字

2022年8月30日発行 
著者:乃南アサ
新潮社


「凍える牙(1996)」で始まった《女刑事 音道貴子シリーズ》以来の女性公務員ヒロインの誕生になった。
飾りないタイトルと言い、本帯の宣伝コピー 『地方都市での家裁調査官の活躍を通して、令和日本の姿を浮かび上がらせる名作誕生』のそっけなさと言い、ほんと人大丈夫?と心配しながら頁をめくった。
しかしながら、この味気ないタイトルこそは僕らが日常に見る少年(少女を含む)が抱えている深刻な現実問題を真正面から向き合う姿勢の表れであることが、読み始めてすぐに察知できた。
主人公 庵原かのんは民間企業で働いた後、家庭裁判所調査官を志し、今は北九州に赴任し少年犯罪を担当している。
東京に動物飼育員の恋人を残し遠距離恋愛中、父、継母、妹弟がいることも物語りの中で紹介されている、ごく平凡な公務員だ。
調査官には捜査も、まして逮捕の権限はない、判事の命令に従って少年の保護・更生を目的とした聞き取りを行うのみである。
14歳から19歳の将来ある彼らの可能性を信じて、問題の原因を探り立ち直りの道筋を立てるための仕事は、
警察調書を読み、本人・保護者から聴き、必要とあれば関係者からも聴取する、その結果を取りまとめて判事に報告するに留まる。
当然ながら、少年たちが皆気持ち良く喋ってくれることもなく、沈黙の裏にある真実、虚偽の話の本質などを探っていくところに
本小説の面白さが潜んでいる。
3年で任地が変わるというルールもあるとのこと、今回の北九州から次は何処で「聴く」ことになるのか?
ご当地巡りの楽しさも含めて、それでいて僕がまるで知らなかった世界を覗く興味深いシリーズになりそうだ。
短編連作形式の今作の概略だけ、以下の通りお伝えしておく:
■自転車泥棒
少年が深夜自転車を盗んだ、その場所にいた理由とは、家庭に秘められた傷跡。
■野良犬
身柄付補導委託(ボランティア有志に預けられる)中の少年が、街で出会った女性に見たものは。
■沈黙
JK売春を差配する少女が隠していた過去の悲劇。
■かざぐるま
少年鑑別所で明るくも男気にふるまう少年とその父親の真実。
■パパスの祈り
日系ペルー四世の父、フィリピン人の母、多言語家族のコミニュケーション、親と子の断絶。
■アスパラガス
発達障害少年の世界と社会との隔絶。
■おとうと
拾い癖家族の再出発、主人公の弟の再出発。
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