東京自叙伝 (2014/8/13)

文字数 728文字

2014年5月10日 第1刷  2014年7月30日 第3刷
著者:奥泉光
集英社



まず、本帯のアジコピーが凄まじい。
曰く:
『明治維新から第二次世界大戦、バブル崩壊から地下鉄サイン事件に秋葉原通り魔殺人事件、福島第一原発事故まで、帝都トーキョーに暗躍した、謎の男の無責任一代記。史実の裏側に、滅亡する東京を予言する』・・・とある。

これは一体どんな歴史小説だろうかと訝りながら手にとったら、もう止まらない。
芥川作家にこんな特異なテイストの読み物があることを知らなかった、
今まで知らないままでちょっと損した気持ちだ。
ネタを明かせば(これから読もうという方はここでストップ・・・というほどでもない)、
別に大したネタではないが、
主人公は「東京に巣食う地霊」なのである。

この地霊、多くの時間(時代)は鼠として過ごしているが時折ベストフィットする
人間キャラクターに乗り移る。
本書に登場する6人がまさにその地霊人間である。
6人が物語る「トーキョー」にまつわる怪しげな歴史エピソードの数々は
決して真新しいものではないが、
地霊の口癖でもある「マァそんなところ」という、
ケセラセラ精神で残忍な歴史、事件を軽薄そうに語り継いでいく。
東京が、東京に住む人間がどんどん蝕まれていくのにつれて、逆に地霊は活気づいてくる。

地霊にとって東京は誇り高い故郷、
人間に蹂躙されるくらいなら、放射能にまみ汚染された土地になってしまうほうがいいという結論になる。
来るべき2020年のオリンピックも、廃墟にこそ「浮かれ騒ぎ」はふさわしい
・・・と地霊は嗤う。

そして、あろうことか、オリンピック開催時には、原子鼠の糞、積み重ねられた屍の腐臭を隠す芳香剤をたっぷりと撒けという。
破滅小説の冷徹さが小気味よかった。


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