ヒューマン・ステイン (2014/10/5)

文字数 720文字

2004年4月30日 第1刷
著者:フィリップ・ロス 訳:川上伸雄



フィリップ・ロス最高傑作とうわさされる「プロット・アゲンスト・アメリカ」を読もうと思ったのだが、ふと気がつくと僕は全くのフィリップ・ロス初心者だった。
それでは露払いにと思って本書を選んでみた。

タイトルは「人間のシミ」という意味になる。
この「シミ」が意味するところは精神的なものなのは間違いのないところだが、
「肌の色」を連想させるものでもある。

物語はユダヤ人教授の一生を描く。
5章から構成される第1章では、老いたりとはいえエネルギッシュで聡明な古典文学専攻の学部長の失脚が描かれる。
人種差別的言葉を学生に使用したことで大学を追われ、妻を失い、若い女に耽溺する元教授。
彼には人生すべてにおいて、隠し通してきた「ステイン」があった。
第2章以降は、過去に戻って彼の作り上げた人生が露にされていく。
語り手は、教授の近所に住んでいる「作家」。
作家の興味を刺激してしまう大きな人生が元教授に秘められていた。
教授の若き日々の恋物語に登場する、はつらつとした女たち、
大学で彼を失脚させるフランス出身の才女の複雑な愛憎など女性が多く語られている。
全編に一貫して取り上げられる話題は(いろいろな人物が論評するという形で)
「クリントン大統領のスキャンダル」。
人間が営々と築き上げてきたと思っている人物、人生を大きな皮肉で崩し去ってしまう不条理は、クリントン事件に通じるところがあるのだろうか。

ネタバレになるが、主人公の「ステイン」は自分の人種(黒人)を消し去って白人の人生を歩みながら、最後は人種差別者の烙印を押される皮肉である。
その生き方を、しかしながら、批判できるものはいない。
壮絶な小説だった。
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