マルチン・ベック シリーズ 【テロリスト】 (2013/10/8)

文字数 757文字

1975年発表、1979年角川書店 単行本(海外ベストセラーシリーズ)初版
著者:マイ・シュベール&ペール・ヴァール
訳:高見浩



マルチン・ベックシリーズ第10作目、最終作品。
著者夫妻が10年間10作でスウェーデンの10年社会史(実際には1964年~1975年)
を描く試みがここに完結している。
毎年1作、各作品はきちんと30章で構成されている、
つまり300章にわたる大河警察小説であったわけだ。
夫君のマイは第10作途中から病に倒れ妻のペールが執筆の中心になった、
マイは完成直後に病没している。

今回の事件は国際テロ犯人との対決。
国賓として訪問するアメリカ上院議員を暗殺しようとするテログループ。
この時期日本赤軍はじめ国際的テロ組織が世界の恐怖に陥れていた時期でもあった。
本作でも南アのリーダー、デンマークの通信、日本の爆薬という
スペシャリストテロリストたちがマルチン・ベック率いる警備組織に挑む。
そして完結編ならではのオールスターキャスティングも
10作を読み継いできたファンにはたまらないところかもしれない。

過去9作でマルチン・ベックにかかわってきた警察官が勢ぞろいする。
ひとりひとりお約束の行動や発言は最終回のご祝儀のようなものかもしれないが、
シリーズ原点のサスペンスの密度はいささかも薄められてはいない。
冒頭、テロ対策のオブザーバーとして南の国に出張したラーソンに降りかかる爆風から
最後のテロリストとの対決まで警察捜査を楽しませてくれる一方、
スウェーデン社会への批判は先鋭化を極め、
小説ならではの取って置きのカタルシスも用意してくれる。
権力の側に身を置きながら社会が変質化していくことに
手をこまねくしかない常識ある警察官たち、
このコンセプトがシリーズを強く支えていたのだろう。
10作の中で、僕はこの完結編が好きである。
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