主権者のいない国 (2021/6/29)

文字数 1,483文字

2021年3月25日 第一刷発行 5月10日 第三刷発行
著者:白井聡
講談社



御贔屓の気鋭政治学者 白井聡さんの新刊書、しかし本書は研究論文ではなく、新聞、雑誌、
WEBサイトに発表した比較的短めのエッセイ風の書き物がまとめられたものになっている。
タイトルになっている「主権者のいない国」は上記論説のまとめとして述べられた著者の切なる
魂の発露だと受け取った、以下にそのエッセンス部分を引用する:
— 引用 ―
何故私たちは、私たちの政府がどうせロクでもないないと思っているのか。その一方で、なぜ
私たちは、決して主権者であろうとしないのか。この二つの現象は、相互補完的なものである
ように思われる。私たちが決して主権者でないならば、政府がロクでもないものであっても、私たちには何の責任もない。あるいは逆に、政府は常にロクでもないので、私たちに責任を持たせようとはしない。
だが、責任とは何か。それは誰かに与えてもらうものなのか。そして、ここで言う責任とは誰に
対するものなのか。それは究極的には自分の人生・生活・生命に対する責任である。
― 引用 おわり ―

多用な媒体に発表したタイムリーな論評であるため、ストレートな結論、いわば強引な持ち込み方も見られるが、著者の基本概念を知る者としては痛快な読み物の連続だった。そこには名著「永続敗戦論―戦後日本の核心」や「国体論―菊と星条旗」で展開された叡智がいくぶん簡易な形で紹介されているので、COVID-19 パンデミック下の不自由を発散するにもお手頃だろう。
COVID-19対応政策に関して戦前・戦後の質的アナロジーとして愉快な指摘があったので紹介する:
サイパン陥落 = COVID-19 危機
東条英機 = 安倍晋三
小磯国暁 = 菅義偉
1940オリンピック中止 = 2020オリンピック中止
敗戦受容の遅れ = オリンピック中止の遅れ

2020TOKYOを24日後に控えた今、このアナロジーに感心している場合ではない。

章立てと論説の小タイトルを書きにお知らせしておく、ご参考とご想像のために。

序章 未来のために想起せよ
第一章 「戦後の国体」は新型コロナに出会った
1 日本史上の汚点としての安倍政権
2 国民の自画像としての安倍/菅政権
3 安倍政権とコロナ危機、三つの危機、三つの転換
4 命令できない国家
第二章 現代の構造 ― 新自由主義と反知性主義
1 菅政権が目指す「反知性主義的統制」
2 安倍政権と新自由主義
3 社会の消滅について ―新自由主義がもたらした「廃墟」
4 高校野球と階級闘争
5 反知性主義 ― その世界的文脈と日本的特殊性
6 泰明小学校アルマーニ問題が問いかけるもの
第三章 新・国体論
1 「戦後の国体」の終焉と象徴天皇の未来
2 原爆と国体
3 「拝謁記」と国体のタブー
4 改元の政治神学 ― 戦後民主主義と象徴天皇制の葬式
5 平成最後の日に
6 〈歴史〉以後としての平成時代
第四章 沖縄からの問い 朝鮮半島への想像力
1 沖縄と国体 ― 犠牲と従属の構造
2 追悼・翁長雄志沖縄県知事 ― その闘いの意味、闇を切り裂いた言葉
3 朝鮮戦争と戦後の国体
4 戦後日本にとっての拉致問題
5 日韓・歴史意識の衝突とその超克
第五章 歴史の中の人間
1 戦後75年を直視する
2 中曽根康弘の逡巡
3 西部邁の六十年安保体験
4 廣松渉の慧眼
5 アジア主義の廃墟に何が見えるか ― 『虹色のトロツキー』論
終章 なぜ私たちは主権者であろうとしないのか
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