カフェ・シェヘラザード (2020/12/6)

文字数 638文字

2020年7月30日 初版第1刷印刷 8月10日 発行
著者 アーノルド・ゼイブル  訳 菅野賢治
共和国



メルボルンに実在した《カフェ・シェヘラザード》に集まる年老いたユダヤ人たち。 
パリのレストラン「シェヘラザード」の名前を使わざるを得なかった、やはりユダヤ人夫婦のお店の主。彼らが語るナチス迫害からの逃避行の物語は、いつ終わるとも知れない、悲しみと憤りに満ち溢れていた。

著者が聞き取り調査をする形式で展開する本書は日本で初めて紹介されたもの。
いわゆる事実をもとにした小説だが、ホロコーストを生き抜いたユダヤ人の実話以上に悲惨さと奇跡が織りなす展開が僕の心に迫ってくる。
さすがに、オーストラリアが誇る作家の代表作だった。

日本訳・出版の決め手になったのが杉原千畝ビザ発行物語りであったように、僕が本書を手に取ったのも真の国益を成し遂げた、彼の偉業に敬意を払ったからである。
本書メイン登場人物5名のうち2名は杉原千畝のビザを手にし、シベリア鉄道・ウラジオストックを経て敦賀に到達し、その後 神戸の難民収容所でつかの間の安息の日々を過ごしている、その様子は僕の初めて知るものになった。

ナチスから生存できた5名の実録エピソードは、作家の手によって美しい世界に置き換えられている、たとえ彼らが経験した死の数々が膨大で残酷であったとしても。
その生存者たちも2020年の今、「カフェ・シェヘラザード」で集い語り合うこともない。
彼らの生きた証は、しかしながら、これからも記憶にとどめておきたい。
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