陽炎の市(まち) CITY OF DREAMS (2023/12/11)

文字数 1,053文字



2023年6月20日発行 第1刷
著者:ドン・ウィンズロウ  訳:田口俊樹
ハーパーBOOKS

ドン・ウィンズロウが構築するマフィア物語三部作の第二弾、前作「業火の市」が1986年東海岸のアイルランド系ギャングとイタリア系マフィアの血で血を洗う抗争を描き、TVドラマのように巻末に次回作のイントロが紹介されるといった、至れり尽くせりのエンターテイメント小説だったが、本作はその戦いに敗れて逃走し身を隠す主人公ダニー・ライアンのエピソードになっている。

時は第一部から二年後の1988年~1991年、この種の古典名作である「ゴッドファーザー」三部作が第二次大戦直後からのサーガなのに対して、ぼくにとっては親近感を感じることができる時代設定になっている。
第一作のレビューにも記したが、著者本来のカジュアルなタッチで大河物語りを語るという安全安心志向の企画が、第二部ではさらに強化深化されている。

まずもって第一部の内容そのものが、まるでシネマのシノプシスのように感じられたものだ。
もしかして最初からシネマ化を念頭に置いた小説ではないかとほぼ確信したのはシネマとの複合マーケティングを意図している出版社(ハーパーBOOKS)の下心が見え隠れしていたからだ。
著者がハーパーBOOKSに移ってから、このような多面的顧客満足度優先企画が多くなっているのは間違いない。
ただし、そんなコンセプト自体は決してわるくないと思っている。小説でシネマで、二度愉しむことができれば、それはそれでハッピーであるから。

と思っていたら、なんと本作では主人公たちのマフィアストーリーがシネマになるという、フィクションの中でのフィクション構成になっていて、驚くと同時にここまで徹底するか・・・と感心してしまった。
主人公がハリウッド・ビジネスに介入し、怪しげな業界の中で生き残りを図り、そして最後には大きな過ちを犯すことになる。

もちろん、ハリウッドに寄生するまでは、仲間のアイルランドギャングとの逃亡生活もあり、裏切ったイタリアマフィアからの報復があり、FBI はじめ政府のアルファベット機関との確執ありの盛沢山ではあるが、先に述べたようにすべては「カジュアル」に進んでいく。
なにより小説冒頭にラストの危機一髪シーンを見せておいての、見事な切り返し、どんでん返しは、マフィア物語のニューウエイブであることを証明していた。

東海岸からウィンズロウ馴染みのカリフォルニア、アリゾナに移動してのでのギャング物語り、ここまで付き合った以上第三部も付き合うしかない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み