spring   (2024/4/4)

文字数 865文字

2024年4月4日 初版第1刷発行
著者:恩田陸
筑摩書房


「蜜蜂と遠雷(2016)」で天才ピアニストたちのコンペを舞台にして、音楽を文字に置き換えた著者が、今度は同様な手段でバレエに挑戦した。

ピアノ・バレエどちらも自分には縁遠い世界だけど、だからこそ文字の世界で未体験を実感することこそが小説の醍醐味であると信じているし、実際 音楽が頁から聞こえてきた、だから今回も躊躇なく本書を手にした。
主人公の萬春(よろずはる)は間違いなく生まれた時からバレエに全てを捧げる定めのギフトを神から与えられていた・・・・という設定が本書の基盤になっている、繰り返すが天才物語である。

主人公がドイツのバレエスクール オーディションに参加し、その後劇団でトップスターになるまでのサクセスストーリー、天才なのだから成功はお約束であるうえに、ライバル、仲間、教師たちとの友情、葛藤エピソードも定番物が用意されているので展開は陳腐になるはずなのだが、ぼくが全くのバレエ門外漢であることを考慮しても、すべてが新鮮に、魅力的に感じてしまった。今回もまた、文字で文章でバレエを感じて熱狂した。

4章で構成されており、各章を一人の関係者の視点で描く:
「1.跳ねる」 :主人公の一番の友が主人公に出逢うところから親しくなる過程で知り得た主人公の並外れた才能を説明する。
「2.芽吹く」 : 主人公の叔父さんが語る幼いころからの主人公の特異性を振り返り、すこしづつ彼の内面が見え始める。
「3.湧き出す」 : 作曲家に転向したスクール仲間と過ごす創作の数々、かなり専門的考察が難解だが、主人公の才能が深く解明される。
「4.春になる」 : 自己確立のための一人舞台に挑戦する主人公の息詰まるクライマックス。

「蜜蜂と遠雷」ではピアノ曲を文字で文章で表現する離れ業に驚いた、今作では主人公の身体能力・躍動が文字になる。
それ以上に主人公がバレエに全てを捧げる原点に心が揺るがされて仕方がなかった。

踊ることで世界を戦慄させることができるか?
贅沢で途方もなく壮大な夢がそこに横たわっていた。
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