帰郷 (2016/8/4)

文字数 613文字

2016 年6月30日 第1刷発行
著者:浅田次郎
集英社



6編からなる短編集、テーマは太平洋戦争に関連した鎮魂歌なのだろうと忖度する。
日本ペンクラブ会長としてこのところ反戦の立場を先鋭化している浅田さんの信念と、
相変わらずの泣かせ節が程よく発酵している名短編集だ。
●帰郷
復員したばかりの兵隊と闇市で出会った娼婦との一夜の語らいに、僕は生き抜くことの崇高さすら感じる。
●鉄の沈黙
ニューギニアの孤島に高射砲修理に派遣された技術兵が日本の科学技術の未来に託した希望に胸が痛くなった。
●夜の遊園地
1960年代初頭、後楽園遊園地、球場でアルバイトする苦学生の一日、戦死した父、再婚した母への優しさに涙する。
●不寝番
陸上自衛隊陸士長が体験するタイムスリップ、そこで邂逅した帝国陸軍上等兵との心の交流に国を守る想いが切ない。
●金鵄のもとに
玉砕部隊の生き残り復員兵が振りきれない生き残ってしまった後悔、彼が採ったその救済方法が哀しい。
●無言歌
特殊潜航艇の故障で死を待つ二人の海軍予備学生中尉、お互いの夢見を語り合い戦争の無意味を訴える。

短編の名手 浅田次郎の面目躍如と同時に、彼の強い反戦の思いが伝わってきた。
また今年も8月15日がやってくる。
いまこの国は、また戦争をしてもいいと思う人たちが増えてきているようで怖い。
かっての戦争もつまるところ庶民の熱意に支持された悲劇だったのに。
日本人はそれほどまでに戦争好きなDNAを捨てられないのだろうか。
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