国宝 青春篇 / 国宝 花道編 (2018/9/17)

文字数 913文字

2018年9月30日第1刷
著者:吉田修一
朝日新聞出版



新聞連載小説(2017年1月1日から2018年5月28日)が単行本として発行される、
吉田修一作家生活20周年記念渾身大作…だそうだ。
「パークライフ」、「さよなら渓谷」、「悪人」、「怒り」などのシリアス純文学路線から、「東京湾景」を代表とする都市型戀愛短編小説、最近では近未来ディストピア「橋を渡る」、そしてついにはスパイアクション「太陽は動かない」シリーズなど、幅広い活躍に目を見張る。
そして、
宣伝コピーに曰く渾身の大作である本作は、歌舞伎界における天才女形二人の波乱万丈の大河小説。極道の息子と上方歌舞伎の御曹司が競い合う芸の極みを、歌舞伎の舞台を見事に紙面に再現してくれる。

この二人は1950年生まれ、僕と同じ時代を生きてきた。
当然、人生折々の大きな事件・行事が物語に織り込まれるものかと想像したが、そんなものは一切なかった。あるのは、女形の芸に向かい合う壮絶な熱意であり、挫折でありそれを乗り越えるさらなる想いだった。
二人の少年が、最後に目にする歌舞伎の景色はどんなものになるか?

新聞連載という枠の中で吉田修一のサービス精神が炸裂していた。
連載毎日に何らかのエンターテイメントが盛り込もうという熱意があったのだろう、常にテンションが高まったまま物語が進行する。今まとめて読み進んでいくと、メリハリの微小なことが少しだけ不満になる、ぜいたくな不満に違いないが。

当然、歌舞伎の著名な演目がたくさん出てくるが、僕のような門外漢でも小説の醍醐味を損なうものではなく、かえって歌舞伎に興味を持つ結果になってしまう、これこそは小説の効用かもしれない。
語り口がユニークである、例えば冒頭第一章の最初の文はこうだ・・・・・
「その年の正月、長崎は珍しく大雪となり、濡れた石畳の坂道や晴れ着姿の初詣客の肩に積もるのは、まるで舞台に舞う紙吹雪のような、それは見事なボタ雪でございました」
誰の語りか最後まで分からない、この「ございます」調がまた吉田小説に新鮮な趣を出していた。

繰り返しになるが、昭和25年生まれでありながら僕とは全く違う世界、
まるで接点のない人生を覗いてみるのも悪くなかった。
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