飛ぶ教室 (2021/11/16)

文字数 793文字

平成二十六年十二月一日 発行、 令和二年九月十五日 三刷
著者:エーリヒ・ケストナー  訳:池内紀
新潮文庫



クリスマスには一カ月以上早いけど、伝説の名作児童書「飛ぶ教室」を手にした。
1933年に書かれた本書は今年で米寿になるわけであるが、文学には永遠の輝きと訓えが宿っていることを、改めて感じ入っている。
1933年はナチスが政権を取った年でもある、数多のドイツ文化人が国外に逃避した中で、戦争終結までドイツにとどまり度重なる迫害に耐え歴史の誤謬を見極めたというケストナーのリベラルな思想が本編にも満ち溢れていた。

《すべて乱暴狼藉は、はたらいた者だけでなく、とめなかった者にも責任がある》
少年少女向けの小説だから、僕もそのような子供の時に読んでいたらその後に大きな支えとなったに違いない。いや高齢者となった今にあっても、人間の「道理」を忘れることの無いよう諫めてくれる物語だった。
物語は、地方の寄宿舎学校に学ぶ5人の子供(小学5年生くらいか?)が主人公、クリスマス休暇を前に思い悩む彼ら、
両親がいない子、貧困でクリスマスに帰省する旅費のない子、
学力よりも腕力が自慢の子、逆に憶病であることに悩む子、
知性に大きく秀でている子、その個性は現在の子供たちと何ら異なるところはない。
タイトルの「飛ぶ教室」は、彼ら五人がクリスマス前の終業式に演じる創作劇のタイトルである、ユーモアとエスプリに満ちた劇自体は今に通じる興味深いものだが、本作のテーマはそんな彼らの友情と、そこから周りを巻き込んでいく純粋なパワーだった。
以上、児童書に対して大仰な感想かもしれない、僕自身ここまで感動するとは思っていなかったくらいだ。
まさか最後に落涙するとは!

敬虔な念仏衆である僕にクリスマスに特別な想いはない。
ただし、音楽、美術、図書、シネマで接するクリスマスの奇跡には、いつもながら打ちのめされる、心地よい高揚とともに。
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