死神の浮力 (2020/6/20)

文字数 912文字

2016年7月10日 第1刷
著者 伊坂幸太郎
文春文庫



本作のもとになる(と思った)「死神の精度(2005年)」がとてもユニークだったような記憶があったので「浮力偏」に期待して拝読した。
とは言いながらその「死神の精度」についてはほとんど覚えてはいない、それは小説が詰まらなかったということではなくて、一方的に僕のボケ具合のためだ。ただ印象的だったのは人間の姿をした死神の軽妙な喋りと、その裏腹に「死」に対する作者伊坂幸太郎の見識が垣間輝いていたことだった。

本作においてももそんなすっとぼけた死神の会話と人間の常識のずれが、随所にちりばめられクスリと笑いを誘われる。しかし前作との大きな違いは(よく覚えてはいないくせにだが)、本作は短編集ではなく堂々の長編になっているところだった。
物語りのテーマは不慮の「死」を見守り査定するため1週間該当人間に寄り添う死神と、「死」を宣告される人間の事情という究極の選択であるから、正直なところ短編で多彩な人間の「死」を眺めていくのならまだ何とか我慢できるが、長編でひとりの人間の死に様に延々と付き合うのは苦しかった。
もっともそこはそれ、伊坂幸太郎エンターテイメントでいろんなお楽しみが担保されているのではあるが・・・。

本作では、娘をサイコパスに殺された夫婦の復讐劇が背景になっている。
復讐とその反撃のなかで死神がある種のボディガードのように夫婦に肩入れする・・・これは「死」の判定対象がその夫婦側だということでもあるが、同様に敵役のサイコパパスにも別の死神が付き添っているところなどは長編ならではの複雑構成なのかもしれない。

死神〈千葉〉の軽口に似た会話とスーパーヒーローのようなアクション、それだけでも十分に楽しめるのではあるが、前述のように「人間の定めである死」に関する想いが疎な中で語られ、僕はそれらに反応する。
「死」を意識すること、「死」を恐れないこと、「死」を寛容すること、いろいろと参考になる・・・そんな年齢になっているのだから。

伊坂幸太郎さんの名誉のために付け加えておくと、
こんな簡素な事件を、最後は感動のフィナーレでもって終わらせる、さすが伊坂文学の神髄にまた触れた思いだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み