幼年期の終わり (2013/8/6)

文字数 748文字

1953年発表 1964年早川書房 1979年ハヤカワ文庫 1993年21版
著者:アーサー・C・クラーク



クラークの代表作であることに間違いなし。
20年前に入手したであろう文庫だが見事にプロットは忘去していた。
こんな名作ですら覚えていられな人間の知の限界をまざまざと実感する、
これぞ「還暦文庫」の意義である。
そして、この「人類の知」がまさに本作のキーワードとなっている。
ある日突然人類の何百倍もの「知」を有する宇宙生命体に全地球が征服される。
しかし、その結果核戦争の危機、飢餓の恐怖、文明の格差は無くなり、
人類は歴史上かってない享楽を経験する。
それまで人類が抱いていた宇宙への旅立ち願望も、
この圧倒的知(技術)の差を目にしてあきらめに転じた。
寛容な征服者が容認しない例外的事項の一つが宇宙への挑戦だったのも大きな謎となって残る。
それから1世紀半が過ぎて、さてこの物語はどう展開するのか?
ぜひこの古典SF名作を今読み解いていただきたいものだ。
そこにあるテーマは「人類は宇宙にとって何か?」
裏返せば「我々人類は何のために生きている、生きてきたのか?」でもある。
銀河系の中の太陽系、その中のちっぽけな惑星「地球」に命を貰った我々は
あまりにも非力である。
日々の営みに疲れ果て、自らの実存を意識することもない。

本作品の結末は悲哀に満ち溢れたものであるが、僕は感動すら覚えてしまう。
種としての自覚に目覚める錯覚すらある、まさに名作である。
クラークのたぐいまれな科学技術の実績に裏打ちされた、
詩的創造力、壮大な哲学が僕を圧倒してしまった。

本書の訳は福島正実氏。SFマガジン初代編集長にして、黎明日本SF界の守護神でもあった。
彼の闘争的SF擁護をして「SFの鬼」とも呼ばれたが、この美文翻訳はあまりにも美しすぎる。
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