mRNAワクチンの衝撃  (2022/3/12)

文字数 1,902文字

2021年12月20日 初版印刷 12月25日初版発行
著者:ジョー・ミラー エズレム・テュレジ & ウール・シャヒン
訳:柴田さとみ、山田文、山田美明
監修:石井健



オミクロンステインの猛威がいくぶん収まったようにも見えるが、一方で春になり4月の年度替わりが訪れると人々の交流が盛んになるとすれば、またまた次の感染拡大が起きるかもしれない。
その対策として、3回目のワクチン接種が実施されているが接種が遅々として伸びないという。
僕は海老名市の指定通り2月6日に接種してもらったが、周りからは1・2回目と同じファイザー製品にこだわって接種をためらっている声をたくさん聞いている。
同じものがいい・・・という感覚はなんとなく理解できる、実際僕もそうしたいと当初は思っていた。
接種率の低迷を懸念した政府からは、三回目のモデルナ製品のほうが抗体力が増加するという(怪しげな)メッセージが頻発してくるなか、僕らしく「どうでもいいな」という結論で指定された日時に出頭して左肩を差し出した。

それからというもの、ファイザー製品に固執する人々には「抗体の効き目は不明だが副反応はないよ」という発信を続けてきたが、心の中では《科学的根拠もないくせに哀れな者どもよ》と
一種見下した態度でいた。
よくよく考えてみれば、僕にも科学的根拠など一切なく、お上の言うとおりに粛々と大切な我が身・健康を差し出していたことに気づく。

そもそも、m RNAワクチンとは一体なんぞや?
TVワイドショーではもっともらしい学者がもっともらしい説明をしているが、本人も理解しがたいことが透けて見えてくる。たった11か月で開発・治験・承認されるワクチンは信用できないとする解説すら流れてくるが、これはこれなりに説得力があった。
今までのワクチン開発には最低4年は必要だとか、承認を急いだあまりワクチンによる医療事故が多発したとか、が聞こえてくる。
つまり、僕自身ファイザー製にしろ、モデルナ製にしろ、そのベースになっている m RNAのことも分かっていないことに気づく。
ファイザー製にこだわる人をあざ笑うのは、天に唾するものだった。

そこで、本書を手に取ることにした。
基本的な情報を僕は知らなかった・・・ファイザー製品はビオンテックというベンチャー企業が発明したワクチンであり、それはドイツの小さな街マインツに創業したトルコ移民の子孫夫婦が生涯かけた研究開発から生まれたものであることを。

本書の表紙裏ブリーフィングを下記に引用する:
WHOのパンデミック宣言に先立つこと6週間、まだ中国以外の地域で死者が報告されていない2020年1月27日、のちに医薬品製造の歴史におけるあらゆる記録を塗り替えることになる、ドイツの小さなバイオ・ベンチャー企業による大逆転のプロジェクトが始まった・・・。
ファイザー社と組み、2か月という常識外のスピードで世界初の新型コロナワクチンの開発に成功したビオンテック社。
「医療界のゲームチェンジャー」として一躍脚光を浴びている mRNA医薬の技術で世界の最先端を走るバイオ企業の創業者/研究者夫妻に密着取材した迫真のドキュメント。

2021年1月にビオンテックワクチンが世界で最初にロンドンで接種された時までのプロジェクト・ライト・スピード(光速度計画)が創業社長夫妻中心に60か国の科学者が登場する取材構成の中で綿密にレポートされている。
夫妻の研究テーマである mRNAバイオハッカーは2020年時点で10年以上の癌治療実績と結果を有していた、だから11か月で承認されることができた。
モデルナ製品はアメリカ政府の手厚いサポートの中で実現したが、EUでは各加盟国の思惑が交錯しビオンテックは当初自力で立ち向かっていた、その後ベンチャーファンドの理解と支援、何よりも夫婦のもとに集まってきた科学者の献身でプロジェクトは継続されていった。
結果として、効力あるワクチンを創り出したが、一手間違えればビオンテックが消滅する危険を常に背負った開発だった。その信念の根拠はウールの言葉にある
・・・「すべては一人を救うことから始まるんだ」

最後に本文からもう一度引用する:
二人の医師は病棟から研究室へ、そしてビジネスやテクノロジー、教育の世界へと足を踏み出した。研究テーマにより分類される傾向のある文化のなかにあって、専門の分野の中にのみ留まることを拒否した。そのため個別の癌治療を念頭に設立されたビオンテックという会社には、この時代において最悪のパンデミックを食い止められるほどの多種多様な専門知識が沁み込んでいた。
それこそが、重視すべき背景である。
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