私の男 (2014/6/18)

文字数 951文字

2007年10月 第1冊  2008年3月 第9刷
著者: 桜庭一樹
文芸春秋



映画化された。
映画を観る前に再読してみようと思った。
その真意は「このとてつもない作品は決して映像では表現できない」と確信するためだった。

桜庭ワールドが大好きだ、ゴシック系以外の作品(刊行されたもの)はすべて手にしてみた。
日本人の「家族の肖像」を扱わせたら、それも「女」の肖像を描かせたらダントツの特異性を発揮する。
もっとも彼女が描く人物はほぼ「女」であるが・・・。

本作は2008年直木賞受賞作だ。
それまでどちらかというと少女向けジョブナイル傾向の作風が一変して
「代表的名作」に変幻した。

名作は常に書き出しが優れている・・・・・
『私の男は、盗んだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた』
このセンテンスに僕は魅惑され、あとは一気に読み進まされてしまう。
そして構成がこれも意図的に功奏している。
6章に区切られているが、時間軸は逆に進む。
各章は一人称で書かれていて、3章が主人公の花、残りを重要登場人物 花の結婚相手美朗、
花の義父であり「私の男」である淳吾、淳吾の恋人だった小町が担当する。
なによりも強烈なのは「父と娘の愛欲生活」描写だった。

「禁断の愛」といえば意味不明に近いものになるが、桜庭はこの詳細を執拗に書き加えて僕を戸惑わせてくれる。
1章から物語は過去にさかのぼっていく。
「私の男」と誇らしげに言い切る花が6章で見せる子供の表情、ここに至る愛の昇華にちょっぴりの事件も色を添える。
ただただ、異常愛の物語ではなくミステリーの要素を各所に振り置いているのこそが桜庭ワールドの真骨頂であろう。
異常愛と言ってしまったが、僕はやはり「家族の肖像」、
そして「女」の素直な生き方が優勢だったように感じた。
無論「男」もいての愛憎物語であるが、男はいつも脇役なのだ、桜庭ワールドでは。
強烈な文章満載ではある、たとえば次のようなものも素敵だ:
『夜の間だけ、こっそりと大人になったような気持ちだった。大人だけど、人間じゃなかった。
わたしは淳吾の、娘で、母で、血のつまった袋だった。 娘は、人形だ。父のからだの前でむきだしに開いて、なにもかも飲みこむ、真っ赤な命の穴だー。』

さて、こんな奥深いエッセンスをどうやって映像に移し替えれるのか。

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