雫の街 家裁調査官・庵原かのん (2023/8/24)

文字数 830文字

20223年6月20日 発行
著者:乃南アサ
新潮社



連作短編集と称されているが、本書は今までぼくが知ることのなかった家庭裁判所調査官物語、主人公「庵原かのん」が数多の調停調査の中で自らを磨き高みに進んでいくというサーガになっている。

本作はその第二作目、北九州家裁から川崎家裁に移動し、前作の少年事件担当から多種多様な家事を受け持つことになる。
章立ては、主人公が関わる申し立て調査に沿う形になっているが、常に複数ケースを扱う調査官の苦労が窺える心配りがなされている一方で、主人公が移動を機会に長年の婚約者と結婚し、調査の心折れる毎日を乗り越える家族の力も第二作の伏流になっていて、読むほうも一時のホッコリ感に包まれるという仕組みになっている。
法律を取り扱う裁判所にあって調査官だけは人間そのものに向き合う臨床家として調停関係者の心の闇に触れることが使命という異色のヒロイン物語、快調の続編だった。

各章の調停概要を下記にお知らせしておく:
1.幽霊
記憶喪失を理由に新しい戸籍取得の申し立て、彼はいったい何者か?
2.待ちわびて
失踪宣告申し立て(死亡宣告)した妻の真意とは。
3.スケッチブック
性的児童虐待を理由に離婚申し立ての妻、子供は真実を明かすのか。子供に絵をかいてもらう主人公、そこには・・・。
4.引き金
熟年離婚調停を申し立てた妻が苦悩した40数年、主人公の両親、義理の両親、コロナ渦の家族の在り方がそこに写し出される。
5.再会
5歳(男子)、3歳(女子)との面会申し立て調査において、両方の実家に翻弄される主人公、面会交流トライアルなど調査詳細が興味深い。
6.キツネ
偽りの夫婦の歴史、妊娠・結婚・離婚に対する慰謝料を申し立てる男、人間の醜さと優しさが際立つ。
7.はなむけ
申し立ては「内縁関係調整」、内縁関係を家裁調停にゆだねるのには深い理由があった、鑑別所にいる子供達、なぜそんな家庭崩壊が?
主人公にとって忘れることのできない調査になる、最終章らしい感動のエピソード。
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