神の棘 (2017/5/16)

文字数 933文字

平成27年7月1日 発行
著者:須賀しのぶ
新潮文庫



著者 須賀しのぶさんの最新作「また、桜の国で」を読んでみようと思った。
この方の作品は初めて、少し作品履歴を調べてみたところ最新作と同じ形式の歴史エンターメント作品3作が気になった。
2010年の「神の棘」、2015年「革命前夜」、2016年「また、桜の国で」はいずれもドイツの歴史を素材としている。
ナチス政権下のカソリック司教と親衛隊軍人、冷戦下の東ドイツに留学した日本人ピアニストと天才ヴァイオリニスト、第二次大戦勃発前の在ポーランド日本大使館職員と友人たち、なんとも興味が尽きない設定だった。
なかでも「神の棘」には全く日本人または日本の要素が入っていないではないか。
まず最初に「神の棘」を手にした理由はそんなところかな、もちろんナチスが政権を取りユダヤ人排斥に代表される個人の権利をことごとく奪っていった過程におけるキリスト教(カソリック権力)の対応も気になるところだった。
無論、所詮は小説・フィクションの世界には違いないのだけど、あえて日本人作家がドイツの歴史を舞台にしたのは何故か?
面白そうではないか。

物語は文庫本表紙の森美夏氏イラストに象徴されるように宗教と独裁国家に分かれて時代を生き抜く二人の若者にフォーカスされる。
ナチスによるキリスト教弾圧、ユダヤ人差別をはさんで両側に対峙する二人がたどる数奇な邂逅が文庫上下1000ページにわたって緻密に描かれている。
ナチスの「指導者原理」はカソリックの組織運営に通じるものがあるとの指摘、ドイツにおけるキリスト教の限界を思い至った。
このように著者はドイツの歴史をまた当時の細かな状況を徹底して資料で調査したようだ。
本作は、ドイツの偏執的ともいえる記録保持と情報開示の時代、そしてそのデータを駆使できる日本人才能が実現したものだった。
二人以外の登場人物も絢爛である、映画女優、ゲシュタポのスパイ、亡命ユダヤ人少女、ついにはバチカン教皇まで・・・。
日本人のいないドイツ歴史エンターテイメント、十分に楽しめるものだった。
読み終わってふと失礼なことを思いついた、この作品は「宝塚歌劇」に似ている・・・と。
そういえば、著者はキャリアの多くを少女向けコバルト文庫で発表している。
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