世界を売った男 (2019/7/14)

文字数 1,131文字

2018年11月10日 第1刷
著者:陳浩基  訳:玉田誠
文春文庫



陳浩基さんの「 13・67 」(2014年)に、痛く感激したものだ。
香港警察の変遷を事件で追うミステリー仕立て、中編連作は年代をさかのぼる展開、そして最後に環が見事に結ばれる手練が新鮮でもあった。
ではでは、日本で翻訳されている最初の長編「 世界を売った男 」(2011年)をチェックしようとしていたところ、最新作 「 ディオゲネス変奏曲 」が発表され、まずはこちらを手に取った・・・・と云う今までの経緯がある。

最新刊の「ディオゲネス変奏曲 」は各種ジャンル(ミステリー、SF、ホラー)の短編が一堂に収められていることや、アイデアのみの習作にいたるまで著者の感性を否応に感じるのと同時に雑多感も否めず、僕は不満足だった。

そこで、日本初刊行である本書に、ようやくたどり着く。
本書もポリスストーリー、惨殺事件を追う刑事の一人称で物語が進む。
殺人事件の翌朝、刑事は2003年から2009年まで一気に時間が進んでいることに気づく、彼にはその間の記憶が無くなっている。
署に戻っても、何か違和感があり知り合いもいないし、自分のことも認識してくれない。
「おかしい」  なかなか滑り出しは快調だった。
6年前の事件を追ううちに、その事件は解決済みであること、映画化が決まって、その特集のため雑誌記者の再調査に便乗する刑事、そこからいろいろな事実が浮かび上がってくる。
僕はほとんどいいように騙され翻弄されるが、なかなか高級なミステリーだった。

【 ここからはネタバレになります、これから読もうと思う方はご注意ください 】
小説のオープニングから、僕はタイムスリップかパラレルワールドジャンルを想像したが、これは見事に外れた。謎のキイは「主人公一人称スタイル」、彼のアイデンティティが不明、彼の見る世界が正しいのか?
「夢オチ」というミステリーの小説作法があるが本作はその一種、変形だけど。
捜査の結果、推理した真犯人が実は自分自身だった…と云う衝撃の展開、
そのうえで、真犯人は別の人間というどんでん返し、ただし主人公と同じように病に侵されている。
謎解きの後から本書をもう一度読み直すと,いたるところにヒント、伏線に気づく。
犯人捜しの内容が稚拙なのでイライラしていたら、最後のどんでん返しで一気にソフィスティケイトされる謎解きタイム。
あの話題シネマ「カメラを止めるな」と同じように二種類の内容の大きなギャップに虜になってしまった。
本作最後の一行はそのエッセンスを凝縮したようなもの、ここまで来て僕はとうとう呟く・・・ 「ヤラレタ」。

「世界を売った男」というタイトルはデイヴィッド・ボウイの唄のタイトルそのまま、深い意味はなかった。
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