黒石(ヘイシ) (2022/12/10)

文字数 835文字

2022年11月30日 初版第1刷発行
著者:大沢在昌
光文社


「新宿鮫(1991)」シリーズ第12作、前11作が8年ぶりだったが今回はそれから3年の速さなのは11作の続きだから、先に申し上げておくと12作も次(13作)に「つづく」となるようだ。
このように3作にわたって引っ張れるテーマというのが中国残留孤児の末裔たちが組織する裏ネットワーク「金石」であるところが時代を象徴している、中国世界制覇の現状を。
新宿鮫本来の宿敵は組織暴力団であり警察内部に巣くう腐敗権力であったが、今どきの犯罪に欠かせないのがやはり中国パワーに落ち着くということなのだろう。
新宿鮫物語に世界の権力地図を見るようなことになろうとは予想したこともなかった。
ただしである、
12話はその中国犯罪ネットワーク内部での権力争いから生じた殺人事件とそれを阻止しようとする鮫島警部の物語に終始する。
新宿鮫の敵役は中国残留孤児裏ネットワークに暗躍する伝説の殺し屋「黒石」であり、その一方では殺し屋のモノローグも多用されその生い立ち・人格・行動も本作の読みどころ、になっている。
むろん鮫島との対決がクライマックスに用意される構成であるのはお約束通り。
新宿鮫シリーズには過去にも凄腕の殺し屋が登場したこともあるが、本作の黒石が独自の殺しスタイルにこだわる異常性から、コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国(2005)」に登場する、アントン・シグルをイメージさせる。
つまり黒石に出逢ったら生き延びることはできない、都市伝説の殺し屋というわけだ。

11話から継続するエピソードも多いため、いきなり12話に馴染むことは難しいが、いまさら本作から新宿鮫に接する読者もいないと思う。
そういう僕も、このシリーズはもはやご祝儀で読み進めているつもりだ、たとえシリーズ当初の興奮を読み取ることができない最近の作品レベルであっても。

何といっても30年以上続いている刑事シリーズ、古典に未だ接することができるお楽しみは捨てがたいものがある。
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