グレート・ギャツビーを追え (2020/12/22)

文字数 1,140文字

2020年10月10日 初版発行
著者 ジョン・グリシャム John Grisham  訳 村上春樹
中央公論新社



ジョン・グリシャムからはずいぶん遠ざかっている、もう一度手にすることもないだろうと思っていた。弁護士物語に飽きたというところだったのか、もう少し活劇法廷ストーリーに惹かれていたのか、いずれにしても弁護士が活躍するミステリーはジョン・グリシャムのおかげで星の数ほど増えたことは事実だ。最近気に入っているのは、マイクル・コナリーの「リンカーン・弁護士」くらいだけど。

もうお気づきのことと思うが(前置きが長くて申し訳なかったが)、本作は(訳 村上春樹)というファクター、その一点で興味をひかれた。
それもそうだろう、村上春樹が作家を志したのがフィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」であり、本作のテーマがその直筆原稿強奪ということあり、村上春樹がそれを訳する・・・となれば、もうこれで決まりだぜ…なのだった。

荒筋はというと、グリシャム作でありながら弁護士は主役ではなく端役にも現れてこない。
事件の発端は、保険金2500万ドルの「グレート・ギャツビー」の直筆原稿が盗まれた。
その後、貴重な原稿の行方は杳としてわからなくなる。
避暑地であるカミーノ島の住民、稀覯本コレクターであり今どき珍しく成功したプレイボーイの本屋店主がいる、
その地にある祖母のコテージ売れない女性作家が久しぶりに舞い戻って来る、
作家は、本屋店主をスパイするため保険会社側から送り込まれた、この二人を軸に「グレート・ギャツビー」探しは始まる。
ミステリーとしては、意外なくらい凡庸であるが、これは見事な恋愛物語、それも屈折した感情が絡み合う異色の恋が愉快だった。
趣として「華麗なる賭け(1968年)」のマックィーンとフェイ・ダナウェイをイメージするとわかりやすいかもしれない、ちょっと古い例えだけど。
そういえば、「グレート・ギャツビー」はシネマ化されたとき、日本では「華麗なるギャツビー(1974年)」と称していたっけな・・。
盗まれた「ギャツビー原稿」をめぐるサスペンスト並行して興味深く読ませていただいたのは、カミーノ島在住の作家たち、その作家たちとの交流を大切にする本屋店主、創作に悩む作家に優しく接する店主、売れる小説と書きたい小説の差を乗り越える作家たち。
サスペンスの裏側にある出版業界と作家たちの楽屋落ち小話も面白く拝読した。
本作のタイトル「グレート・ギャツビーを追え」の誇大妄想性に気づいていた、販売政策としては仕方ないかなと諦めていた。(原題はカミーノ島)
村上春樹が「訳者あとがき」のなかで、邦題はこれしかないと言い切っていた、タイトルは彼の発案だった。大いに納得した、僕は忠実な村上主義者だから。
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