芥川賞の謎を解く 全選評完全読破 (2015/9/2)

文字数 1,090文字

2015/6/20 第1刷発行  2015/8/5 第2刷発行
著者:鵜飼哲夫
文春新書



又吉直樹さんの「火花」は累計単行本の版数が200万部を超えて記録を更新中とのこと、
ご同慶の至りです。
この作品が処女作だったのが業界の悔みどころ・・・とのニュースがあります。
芥川賞受賞作家の受賞作以外の作品も、一般的には売り上げが伸びるからで、いわゆる販売機会喪失だそうです。
そんな業界内の恥さらしのような秘め事が外に漏れてくるほどに、
この業界の不振を心配せずにはいられません。

本が売れてくれればいい、そのためには手段を選ばないというのでしょうか。
構造的問題点に向き合うことなく、小手先の売り上げ増を追いかけてきた結果の現状すら、
出版界は自覚できていないようです。
その意味から今の「火花」ブームを冷静に検証すべきなのかもしれません。

そんな折に、確信的便乗商法として出版された本書ではありますが、
創設から昨年平成26年下半期までの芥川賞選評を伝える本書は興味深いものです。
1935年(昭和10年)の上半期芥川賞(第1回)で落選した太宰治が選考委員の川端康成を
「刺す」とまで激怒した事件は、まさに公開された選評がきっかけでした。
著者はここから始めて時代ごとの芥川賞選考を読み解いてくれます。
単なる選評開陳ではなくその時代のテーマ設定が適切です、それは80年間の日本文学の大きなうねりも感じさせてくれるものです。

選考委員も作家である点が芥川賞選考物語のエッセンスなのでしょう、作家個人の強引な個性がぶつかり合った様子が想像できます。
前述の太宰は結局芥川賞には縁がなかったように才能ある作家が皆この賞をもらっているわけではありません。
正式には芥川龍之介賞は純文学の無名もしくは新進作家に与えられるものです。
しかし創設者の菊池寛は一方で
「純文学でも大衆文学でも、人にたくさん読まれるのが肝心である。
読まれない文芸などは、純文学だろうがなんだろうが、結局飛べない飛行機と同じものである」と表明しています。
誤解してはいけないのは、菊池は文春の社長として利益優先の立場での発言ではなく、
純文学も十分市場価値を待たなければいけないということが真意だったと思います。
そして今年上半期の「火花」の又吉さんは、菊池寛の望んだ無名でありながら市場価値のある純文学を書きました。

経済の波及効果として本書のような羊頭狗肉(帯の「火花」、ピース又吉のフォントの大きさ!)商売も出現してくるというものです。
本書には「火花」の選評は一言も含まれていません、まったく詐欺寸前です。
でも純文学で儲ける、儲かる・・・いいんじゃないですかね。
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