友がみな我よりえらく見える日は (2016/11/5)

文字数 661文字

平成11年12月25日 初版発行 平成18年7月20日9版発行 
著者: 上原隆
幻冬舎アウトロー文庫



評判の高いルポルタージュをこのたびようやく手にした。
タイトルは、石川啄木の一握の砂からの引用だ、
なんとも暗く気がめいってくるタイトルではないか。
ここに盛り込まれた14編のミニルポは、タイトル通りの素材なのだろう。
墜落して失明した友人、容貌へのコンプレックスの強い女性、ホームレスになって自由を得た男、テレクラ依存症の夫、独自の生き方を貫く芥川賞作家、絶滅のフィルム編集職人の毎日、
父子家庭の男の矜持、自分の身の上に執着しない女、妻と別れた独り身の男の言い分、才能のない女優の鬱積、定期的鬱病に悩む男、妻に裏切られた男の抜け殻の人生、企業リストラの犠牲者の再生・・・。
ルポには脚色も誇張もない、淡々と対象者を描写し続ける。
なんとも表現しづらい、人間の弱さとセットになった強靭さを受け取った。

これらが取材され書き残されたのは1996年、今から20年前になる。
当時は取材された14組の人間は、日本人の生活から一歩かけ離れた、あるいは特別に厳しい境遇の人たちだったに違いない。
彼ら、彼女らがそれでも心の中を開き生きる思いを語る、そこに本作品の特異性があった。

しかし いま、このような生活を強いられている日本人は増えた、これからも増えていくかもしれない。
現実においては、「友がみな我よりえらく見える日」をどれだけ多数の日本人が過ごしているのだろうか。
それとも、みんなが一緒なら、もはや何も悩むことも自分を鼓舞することもないのだろうか?
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