同志少女よ、敵を撃て (2022/4/23)

文字数 981文字

20021年11月25日 発行、 2022年4月10日 19版
著者: 逢坂冬馬
早川書房



2022年本屋大賞作、見事に完成されたエンターテイメント・サスペンスだった。
モチーフがソ連(ロシア)の大祖国戦争(1941~1945)であるといえどもだ。
その構成力と細やかなディテールは、骨太でセンシティブ、申し分ない読了感に浸ることができた。
物語りそのものはさして特異な内容ではない、ソ連狙撃小隊の戦歴をこと細やかに追いかけたものであるから。ただそのエッセンスが「フェミニズム」に色濃く彩られている。
小隊は隊長以下すべて女性で構成されている、当然他の兵士からの差別(今でいうハラスメント)に常時晒される。
そのエピソードの数々は想像の枠内ではあったが、それを凌駕しているのが前述のディテール、著者の努力が結実していた。

主人公は小さな村の優等生、モスクワの大学に進学する直前、村がドイツ軍に蹂躙され母親はじめ村人全員が虐殺される。彼女が狙撃兵になったのは、その復讐のため。
仲間の狙撃兵もそれぞれに肉親を失っており、その一人一人の因縁も物語りの中であぶり出され、昇華されていくという筋書きになっている。
作品の狙いは、戦争の中で女性がいかに虐待され疎んじられてきたかを、いまさらながらではあるが繰り返し日のもとにさらすところにある。
女性狙撃小隊という設定もさることながら、至る箇所にジェンダー問題が提起されているのは今の時代を強く意識した著者の信念が表れていた。

エピローグで、英雄と称された女性狙撃兵の隠遁生活が紹介される、戦争の英雄でさえ決して女性は評価されることはないとしたら・・・
さて皆さん、特に女性たち、あなたはこれからどうしてこの壁を打ち破るのか? とういう問いかけが悩ましかった。
この問いは、等しく男性たちにも投げかけられたものであることも本書の隠された価値である。

老婆心:
ロシアのウクライナ侵略戦争とシンクロして、「本屋大賞」受賞となり、奈辺に政治的メッセージがありや? と思いがちだが、繰り返しになるが本書は類まれなる戦闘サスペンスである、アガサ・クリスティ賞は伊達ではない。
狙撃兵の一人はウクライナのコサック兵の末裔という設定の中で、ウクライナとロシアの因縁に触れてはいるが、現在のウクライナの戦い方を見ていると納得する点があるのは、著者のサブリミナル効果なのか。
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