ムーンナイト・ダイバー (2016/8/24)

文字数 674文字

2016年1月25日 第1刷発行
著者:天童荒太
文藝春秋



天童荒太さんの新たな代表作になるだろうと、読了後直感している。
子供たちのトラウマからの悲劇をテーマとしていた初期の作品から、
「悼む人」に見られる死者すべてに対するシンパシーに突き進む天童作品。
読者を巻き込んで奈落の哀しみに人間の本質を見出そうとする作品の数々は、
ある意味では人間の現在を見つめ、問いただす世界観があった。
そのテイストは決して嫌いではなかったが、小説として評価したときあまりにも希望のない読後感慨があったのは紛れもない事実だった。

本作も、その意味では天童ワールドを全うしている。
主人公は東日本大震災で両親・兄を無くし、漁師の仕事も失い、避難先でダイビングインストラクターをしている。
避難先の近くには津波に襲われた原子力発電所の町があった、その街も住民も多くは海に流されてしまっているが、放射能のため放置されたままだった。
彼が秘密裏に依頼されたのが、この気危険極まりない海に潜り、かっての住民の遺品を採集する仕事だった。
行方不明の遺族がどうしても死者の印を探したいという気持ちからの違法な作業の中で、
死者と向き合う主人公に忍び込む「生の虚無」。
そして新たに主人公に降りかかる、生き残ったものだけにしか共感できない心の重圧。
新しい人生に歩みだすために死者と巡り合わなければいけない人々の哀しみが切ない。

天童ワールドは、しかしながら、本作において人が生きるために必要なもの、
不要なものを指し示してくれる。
あの大災害からすでに5年が経過している。
多くの人たちがまだ心の傷を癒してはいない。
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