族長の秋 (2022/6/17)

文字数 955文字

1994年月25日 第1刷
著者:ガルシア・マルケス 訳:鼓直
集英社文庫




積読一掃シリーズ第3弾だが、本書は忘れ去っていたものではない。
随分以前に「マルケスをせめて一冊!」という思いから読み始めたものの撃沈されたままになっていた小説である、さてさてもう残り時間のない身として再挑戦には覚悟を決めて臨んだ・・・
とりあえず「マルケスを読み切るぞ!」って。
冒頭から苦戦する、記憶にあった手ごわさを思い出し、またもタジタジになってしまう。
タイトルからして、また南米文学を代表するテーマである独裁者の物語であることはしっかりと頭に入っているのだがこの小説作法には思い切り面食らってしまう、前回同様だった。
起承転結らしきものがないことはある程度読む進まないと判明しないが、句読点が乱立し、脈絡ない単語、語り手不明な描写、同様に主体不明なモノローグ・・・これらの羅列が延々と続く。
南米某国大統領の「死」が語られるのだが、上記の通り難解文章からダイレクトに描き出される展開からありったけの想像力をひねり出して大統領(族長)の終焉(秋)を追いかける。

原文に沿う形式なのだろうと想像するが、行替えはなく書きっぱなし、会話もその中に組み込まれているので、読み飛ばすことはできない、どこにキーワードが埋め込まれているかわからないから。
著者の策に嵌まったかのように僕は一行一行、一文字一文字を生真面目に追いかけえしかなかった、そうでなくても視力劣化を感じる現在、物理的にも本作の読書は疲れるものになった。

当然のように章立てはない、ただ1ページ分の白紙頁が物語の転換を示している。
それらは「大統領の影武者」、「母親」、「最愛の妻と息子」、「有能な側近」、「民衆への信頼(民衆からの敬愛)」と敢えて題付けできるテーマで仕切られている一方、どのテーマにおいても大統領官邸の雑多・猥雑と官僚の忖度と無能が繰り返し描写され、僕は少しづつ本書に引き込まれていくのを感じる。
それは独裁者の孤独と傲慢だった。

ふと気づく、
いま世界はそんな独裁者を見聞きしてはいないだろうか? 
圧倒的な民衆の支持、外国勢力の圧力・強奪、天賦の統治能力、非情な強権発動そして全面的責任転嫁。
族長の秋は、一つ南米の悲劇ではない、我々人類すべてに突き付けられた喜劇なのかもしれない。
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