顔 FACE  (2022/5/31)

文字数 966文字

2022年3月15日 初刷
著者:横山秀夫
徳間文庫



2005年に刊行され、今回新装版で手直しされた短編連作だが、僕には初の出会いだった。
横山ワールドの原点であるD県警シリーズの中でも異色なのは主人公が女性であること、
もちろんD県警シリーズにも女性警官(婦警)は登場する、横山さんデビュー作「陰の季節(1998)」に収められた短編に実は本作主人公が登場しているとのことだが、記憶にはなかった。
本作では婦警にあこがれる主人公が、似顔絵担当鑑識官として男社会で苦悩し、成長する。
だから、タイトルが「顔」であるわけだ。
事件担当官ではなく警察職員が主役という、D県警シリーズ一番の特徴は今回さらに進化して、女性の鑑識官を失敗して広報室、電話相談室などの閑職に回される主人公が、持ち前の捜査能力と「顔認識力」で捜査活動に加わっていく中、当然ながら上司・同僚の男たちからの妬み僻み無理解無視・・・ミソジニーに近い警察社会でもがき苦しむ姿が痛ましい。
女性警察官の地位を守り、差別偏見を是正しようとする先輩、警察のマスコットに甘んじる者、挫折逃避する者、懸命に警察社会で生きる多くの女性が登場する。
簡単なエピソード(短編)を紹介しておく:
●「魔女狩り」 マスコミに情報漏洩している警官はだれか?
●「訣別の春」 焼き殺される・・・と電話相談してきた少女の過去に何があったのか?
●「疑惑のデッサン」 後任の似顔絵担当の実力とは?
●「共犯者」 訓練の銀行強盗と本物の銀行強盗、誰が仕組んだのか?
●「心の銃口」 女性交番警察官が襲われ拳銃が強奪される、主人公も拳銃を手に?
最後には、立派な女性刑事アクションに様変わりするという、D県警シリーズ異色の展開でもあった。
2005年のテイストは一切ないが、2005年から何も変わっていない女性の立場に改めて日本の劣化を心配する。
著者の辛口コメントとして、2005年から今に至るまで警察内の男社会は根底では何も変わっていないことを手直し作業の中で確認したとある。
これは何も警察のなかだけの話ではないだろう、日本の実像を映し出しているだけだと思わざるを得ない。さすれば、主人公はすべての女性の未来への希望であり、ヒロインである。
僕は組織に安住する輩は男も女も嫌いだ、自らの能力で組織を改革する主人公のこれからに大きな幸あれ。
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