憲法の涙リベラルのことは嫌いでもリベラリズムは嫌いにならないでください  (2)

文字数 1,127文字

(2016/5/3)
2016年3月20日発行
著者:井上達夫
発行:毎日新聞出版



安倍第二次政権発足以来、「憲法改正」について本気で考えだした、そして今日は憲法記念日。
それまでは、そんなことを心配しなくても日本の安全保障は破綻なく作動していると思っていた。
自民党が結党以来、「改憲」を党是としていることは知っていた、歴代の指導者が日本的曖昧さで憲法を解釈し、米国との関係を綱渡りしていたことも。
実は、自分自身の原風景として「自衛隊」と憲法第9条の不合理をずっと心の奥に抱え込んできていた。
僕らの団塊世代は戦後ベビーブーマー教育として徹底的に戦争放棄・平和主義を教え込まれてきた、それは一種の洗脳でもあった。
それほどまでに先の戦争は日本と日本人を疲弊せたし、対戦国のとくにアメリカは日本人の好戦的性格に恐怖したのだろう。

そこで「憲法」にはかってどの国家にも謳われたことのない戦争はしない、軍隊は持たないという条項が盛り込められた。
閑話休題、僕の父は警察官だった1950年、朝鮮戦争勃発に伴う米軍移動後の治安維持のため創設された警察予備隊の員数合わせで1年間入隊した。僕の叔父は陸上自衛隊にて定年まで奉職した。

身近に自衛隊のことを見知っていた僕にとって、憲法第9条第2項が言う
「・・・陸海空軍、その他の戦力は、これを保持しない。」がずっと解けない難問だった。
憲法第9条を日本語として理解すれば、日本は絶対平和主義の立場なのに、現実には日本は軍事力を持っている。
非武装では国は守れない、ではこの憲法をどう理解すればいいのか?…ずっと心の奥に抱え込んでいた悩みだった。

本書は、僕の長年の苦しみを解くヒントがたくさん詰まっている。
著者は憲法第9条に特化した論争では異端的少数派らしいが、
僕には神のような卓見を主張している。
乱暴にまとめると著者の信条、シナリオは次のようになる:
《最善案》 9条を憲法から削除する
《次善案》 護憲的改憲
《三善案》 保守的改憲発議
《最悪案》 何も変わらない

僕が最も納得したのは、現実と憲法9条が乖離した状態では、9条は死文化しているという指摘。
だったら、いっそ憲法で安全保障に枠をはめるのをやめて、国民がもう一度真剣にこの問題を熟考しようという点だ。
このままだと護憲派も改憲派も勝手な憲法解釈で実効性のない政治闘争に陥ってしまう。
《次善案》の、憲法に専守防衛明記とその軍事力としての自衛隊の認知が僕が長年無意識で考えていた解決点だった。
このままでは憲法などを無視した歯止めない集団的自衛権拡大に付き合うことになりそうだ。

日本の安全保障について研究したいのであれば、本書を一度手に取ってほしい。
ただし、もうそんな時間の余裕はないような気もする。
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