ゲームの王国 (2023/6/10)

文字数 873文字

2019年2月15日発行、2022年8月25日 四刷 
著者:小川哲
ハヤカワ文庫


「地図と拳(2022)」、「嘘と正典(2019)」に続いて手にした小川哲作品、想像した以上の馴染みにくさに読むことそのものにてこずってしまった、最近目を悪くしたため読力も衰えたのかと不安にすらなっていた。
なんとか読み終えて、「著者あとがき」に進んだ時その難解さの実態が説明されていた、読書中ずっと感じていたわだかまりが消え納得した。

物語はタイトルの通り、理不尽極まりない政治に翻弄される人間の悲劇を解消するため完ぺきな「ルール」を備えた国家体制を目指す者、
そんな儚い理想からさっさと身を引きはがしゲームの世界に自己陶酔する者、
象徴的二人の運命を長大な時間スケールとカンボジアという特殊な地勢のもとに描いている、
確かにカンボジアはぼくには未知であり、ゲーム理論は不得意分野である、てこずるわけだった。

1956年から2023年までの半世紀に及ぶカンボジアの悲劇くらいは知っていたが、まさかそこに生き死んだ無名の人民に接するとは予期してもいなかった。
クメールルージュによる大量虐殺をメインとした登場人物多数のエピソードに辟易し、その意図は何処にあるのかと何度も訝しく思った。

著者「あとがき」に戻る。
著者本人が本作はアマチュアとして書いた小説であり、プロの自覚のない作品だと明言している。だからこそ、本作は自分が表現したいものだけを見つめた書いた、とも。
そう開き直られると、読者としての僕は新しい視点が開けてくる。本作のひとつひとつのエピソードが愛おしい。
プロ作家に対して失礼ではあるが、ぼくも書きたいことだけを書いているから本作の価値を理解できる。もし誰かに読んでもらえるようならもっと嬉しいが、別に人から評価されるつもりのない小説の凄みを感じた。

ところで、
もしも「あとがき」がなければ、どう思ったか?
いや、本作は文庫化重版になるくらいだから「あとがき」は立派なマーケティングツールに違いないし、著者は現在はプロ作家である、「あとがき」を読んで満足してもらってなんぼだろう。
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