ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨 (2022/7/15)

文字数 774文字

平成八年十一月一日(1996年11月1日) 発行
著者:山田詠美
新潮文庫



本短編集に収められた三編は1985年~1986年にかけて発表された著者処女作から三作、いずれも当時世間を衝動させた名作だが、僕はその実際を知る(読む)ことなく、頭の片隅では一度は触れておきたいと願いながら文庫版を手元に積読することで長期間が経過してしまった。  
積読解消シリーズ第5弾は「公序良俗破壊」の問題作、
ただし時代のモラル、風景は当時から想像できないほど変化していた。

三作すべてから感じたのは、平凡な(セックスシーンも日常とすれば)日常を、かって思いついたことのない言葉で括っていく著者の才能、素直に感動し慄きすら覚えてしまう。
常々秘め事は秘めたるところに意義を持つものと思っていたが、卑猥な言葉の羅列がいつの間にか品位すら放つ不思議につくづく小説は理想と比喩の結晶だということを思い知らされた。

1.ベッドタイムアイズ
脱走黒人兵スプーンとの愛欲の日々、ただし心ではなく体でしか感じることのできない愛の形。
アメリカ黒人文化と四文字言葉で粉飾されたミラクルワールドにまずは驚かされる。
これって小説と呼んでいいのか?
そんな未体験ショックに慣れてくると、その向こう側に素っ裸の女の心が見えてきた。

2.指の戯れ
「ベッドタイムアイズ」と重複する黒人兵との愛の世界。
今作ではややサスペンス風味が加味され単純なセックス描写に格調すら感じてくる。
テーマは前作と変わることなく体(指)でしか愛を確認できない(これは否定ではなく肯定として)男女の姿。

3.ジェシーの背骨
感動の家族愛物語?!本短編集の昇華した形であり、目指した愛の包括になっている。
まして本作における「愛」は少年(愛人の子)との断絶をベースに置き、寄り添う心にフォーカスする。
美しくも比類なき人間愛のメタファーが凝縮されていた。
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