開かせていただき光栄です (2022/5/29)

文字数 945文字

2013年9月15日 発行 2016年8月25日 四刷
著者:皆川博子
ハヤカワJA文庫



著者皆川博子さんとは初めてのお付き合いとなった。
今年92歳で現役作家としてご活躍との記事を拝見した折に、僕は著者のことを全く知らなかった。その時、著書は僕の好みのジャンルではないので巡り合うチャンスがなかったのだと理解しようとして、念のため彼女のプロフィールを調べさせていただいた。
日本推理作家協会賞(1985年)、直木賞(1986年)、柴田錬三郎賞(1990年)、吉川英治賞(1995年)などなど受賞、本作は2012年本格ミステリー文学大賞になっている。
近年ミステリー分野、幻想文学にも進出しているとのこと、
繰り返すが僕の不明だった。

そんな事情から、ほとんど著者作風の予備知識皆無のまま突撃した。
最初タイトルを「聞かせていただいて光栄です」・・・と読み違えて本を開いた。
そう、正しいのはこの「開く」という言葉であり「聞く」ではないのだが、「開く」という平凡な言葉に僕は慣れてはいなかった、いったい「開く」とは何?

読み始めても僕の勘違いは修正されないままプロローグに首をかしげること数回、この小説の方向が全く見えてこない。小説の舞台は18世紀のロンドン、産業革命で農村が消え都市労働者の悲惨な状態のロンドンを著者は事細かく描写していく。
日本人による外国を背景とした優れた小説に近年出会う機会が増えてきているが、本作もその系統だった。当時古希を過ぎた皆川さんが果敢にも3世紀前の外国の地を背景に選ぶ挑戦心に驚き、僕は励まされる。

そして、本篇に入ると登場人物が解剖学を極めようとする医師とその学生たちであることがわかる・・・ようやく「開く」の意味が判明する。
(ちなみに僕は通常表紙カバーを外して読む、カバーのイラストを見ると一目瞭然だった)
治療のため、医学全般発展のためには人体解剖が必須であると信じる解剖団にある日転がり込む3体の遺体、 殺人か、自殺か、事故か、病気か ?
重要参考人が次々と殺されていく中で、盲目の治安判事が事件を裁いていく、その結果はいかに?
密室、アリバイに抜け道はないか、そもそも犯人の策する目的は?

本格的推理小説であり、猥雑なロンドンを詠うポエムでもあり、愛憎深い人間たちの物語だった。
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