パンとサーカス CONTRA MUNDI (2023/4/12)

文字数 898文字

2022年3月22日 第1刷発行 2022年8月5日 第4刷発行
著者:島田雅彦
講談社



痛快極まりない、傑作である。
「パンとサーカス」とは愚民政治を象徴し、サブタイトルの「コントラ・ムンディ」は世界の敵という名の秘密結社だ。
物語は一貫して現在今時点の日本の政治形態の愚かさを背景にし過去十数年前から少し未来までの物語として語られる。
主人公は子供時代からの親友同士の男二人、一人は消えつつある産業であるヤクザの跡取り、もう一人は秀才の夢想家という、
異質な男の友情というよくあるパターンの立ち上がりなのではあるが、二人が将来コントラ・ムンディになるという夢がキーワードになる。
ひとりは裏家業をバックに政界の汚れ仕事に手を染め、片方はアメリカ留学中にCIAにスカウトされる。
アウトローとスパイが織りなす夢と希望に満ちた世直し冒険小説など、ありきたり過ぎて読む価値があるものかと疑いながら、諸般の事情でおよそ一年読み始めるのが遅れてしまったのを今大いに後悔している。
物語のコアは敗戦以来米国に従属することに慣れ親しんだ日本、傲岸貪欲な支配層と無抵抗無知な国民、この構図を一気に変えてしまうテロ・クーデター、そこに絡まる権謀術数がどちらかというとカジュアルなタッチで、しかし周到に紡がれていく。
単行本500頁超のボリュームながら、エピソードの積み重ねと現実を揶揄するかのような描写は、へそ曲がり人間にはうってつけの娯楽だった。
安倍元首相や官邸秘書、トランプ大統領はじめ実在人物を想起させる登場人物に戦いを仕掛けるコントラ・ムンディ達、爽快でしょう?
CIA、中国安全部、内閣調査室、闇の政商、野党党首、ネットジャーナリスト、人権弁護士、預言巫女、何やらポリティカルサスペンスの常連が一堂に会するオールスター小説になっていた、爽快以外の何物でもなかった。

物語の中で、日本はいつも米国から中古武器や性能の劣る戦闘機を買い取らされているというくだりがある。
今朝(2023年4月12日)の毎日新聞の一面タイトルが「激論の末 トマホーク導入」となっている、一発4億円は安いのだそうな、400発でも。
小説は事実よりも奇なり?
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