紙の動物園 (2022/7/1)

文字数 1,613文字

2015年4月25日初版発行 2015年7月10日5版発行
著者:ケン・リュウ   訳:古沢嘉通
早川書房



積読一掃シリーズ第4弾。
本書は積読ではなく、完璧に忘れ去ったものだ、しかしこの評判の高い短編集を早い時点で(第5版だけど!)購入したところまでは覚えているのだが、どこかに紛れ込んで、そのうちにすっかり忘れ去っていたようだ。
時間経過からすると7年間寝かしたヴィンテージもの・・・というわけである。

当時勢い込んで購入したのは僕らしいミーハー興味があったから、本短編集にはヒューゴ賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞 三冠に輝く表題作のほかにも、日本人乗組員が主人公のヒューゴ賞作「もののあはれ」はじめ上質なセンスオブワンダーに満ち満ちた短編が15編おさめられている。
7年間熟成したお詫びを込めて本書15編への個別短評をトライしてみた:

1.「紙の動物園」
母親に対する思春期のちょっとした抵抗感、母への冷たい対応を後悔する、誰にも覚えのある経験だ。ただし、母は英語をうまく話すことができない父がカタログで注文した中国人、その母が実は・・・・だったというファンタジー、しっかりと泣ける。
2.「もののあはれ」
日本人青年が主人公なのだが、僕は戸惑う。その理由は本編のテーマである宇宙航海船ミッションに献身する日本人が過大評価されているように思えて面はゆい、まだ日本人は誤解され続けている。
(ちなみに、「三体」ではこの思い込みが見事に粉砕されている、この対比も興味深い)
3.「月へ」
強烈なアイロニー、著者自身または友人の体験だと容易に推察できる難民対応がテーマになっている。
しかし、孫悟空エピソードはアメリカでもポピュラーなのだろうか?
4.「結繩」
テクノロジーの進化は人類を幸福に導くのか? 壮大なテーマを中国辺境民族が有する結繩文字システムとアルゴリズムの関連を
メタファーするスリラーとして問いかけてくる。
5.「太平洋横断海底トンネル小史」
見事なパラレルワールド短編、第一次世界大戦は勃発せずその代わりにトンネルができた。
アーサー・C・クラーク張りの誇大妄想と日本国天皇の叡智が眩しすぎた。
6.「潮汐」
地球を救う父娘の愛情が切ないショートショート。
7.「選抜宇宙民族の本づくり習性」
ここまでから一転した形而上短編、宇宙知性の本の定義が難解だが興味深い。
8.「心智五行」
不時着した惑星は古代に退化していた、そこでは無菌無垢では生きていけない。
バクテリアをすべて除去した人類がバクテリア本来の機能を超える「心」形成に至るSTDGsメタファーの一編。
9.「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」
シンギュラリティを超えた人類社会に生きる古生人メンタリティ母娘と二人を見守る父・・・しかし中身はハードSF 。
10.「アーク 円弧」
生命の意味を問いかけてくる短編集随一(僕の感想)の感動作、古くから使い古された「不老長寿テーマ」であるが、
数世紀の及ぶ一女性の生き方から人生の意味を今一度考え直す。
11.「波」
古い者は新しい者に道を譲るために死ななければいけない、そして人類は進化を超えた知的設計論に至る。
移民宇宙船内で提起される永遠の命、その先にあったのは異次元定義の人類の姿だった。
12.「ビットのエラー」
宗教を信じるのは遠い新星からの陽子が原因か? 愛する人を失った無神論プログラマーの淡い恋心。
13.「愛のアルゴリズム」
赤ん坊をなくしたAI人形開発者、その悲しみをバネに全能型人形を完成する、その時自分もまたアルゴリズムの枠内で生きている、愛の形態のおいてはなおさらに…と気づく。
14.「文字占い師」
本編はSFではない。台湾に住むアメリカ人少女の或る経験、ノスタルジックだけど悲惨な事件を文字(漢字・英語)から解読する
マニアックな一編。
15.「良い狩りを」
美しい妖狐と妖狐狩り少年が香港の闇に咆哮する。時代変節を超えての崇高な純愛ファンタジー。
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