星条旗の聞こえない部屋 (2022/4/2)

文字数 997文字

2004年9月10日 第一刷発行 2011年2月1日第五刷発行
著者: リービ英雄
講談社文芸文庫




リービ英雄作品は初体験、著者処女作(1992年)を30年経過後に拝読した。
著者は僕と同じ1950年生まれだが、生粋のアメリカ人、後に日本文学の研究者から作家に転じるのだが、日本語で表現する小説が世界で一何美しいと断言する、僕には青天の霹靂のガイジン作家だった。
「英雄」という名前は外交官だった父親が日系人収容所にいた友人にちなんでつけた名前だという、生まれた時すでに運命が決まっていたのか?
父親とともに台湾、香港に住み、1964年日本(横浜)で過ごすことをきっかけに日本に傾倒していく。

本書はその後大学生活の合間に来日していた時期の自己体験をもとにしたドキュメンタリータッチの小説に出来上がっている。
著者は、見た目の異なる人間、特に白人を本心からは受け入れない日本社会を大学、アルバイト先、新宿の街で見る風景・人間を透して鋭く、かつ皮肉をもって描写していく。
時代は1969年、早稲田留学(日本語研修)中の日米双方学生たちの偏見の数々、英語が貨幣価値をもって支配する摩訶不思議な世界を揶揄しているが、僕は素直にそのシーンを笑って読み過ごすことはできなかった。
当時異形の(金髪碧眼)のガイジンが苦手だったし、まさかに彼らが流ちょうな日本語をしゃべるとしたら、ただそれだけで彼らは神の存在に近かった、半世紀前の話であるから今ではそんなことはないのだろうと願いたい。

物語りは僕にとっても懐かしい早稲田、新宿(歌舞伎町)での主人公の戦いともいえるような日本社会への洞察がふんだんに盛込まれていく。
唯一の日本人友人安藤の下宿への家出を描いた「星条旗の聞こえない部屋」、
ケネディ大統領葬送行進を目撃したアーリントンと新宿風月堂が交錯する「ノベンバー」、
歌舞伎町深夜喫茶で夜勤アルバイトする主人公の日本社会への怒りと挫折の「仲間」。
これら中編3作連作の中に潜り込んだ僕は、紛れもなく自分自身の青春を思い出し後悔していた。
優れた小説の常であるように本作は僕とシンクロしていたのだった。

老婆心:
最初、カズオ・イシグロとの接点のようなものを期待して読み始めた、石黒作品を英文で読んだことはないので確信はないが、
リービ英雄は日本語愛が小説を書かせたのに対して、石黒は日本文化が英国文化を触発して小説に結実したような気がした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み