神坐す(かみいます)山の物語り (2023/8/19)

文字数 946文字

20214年10月25日 第1刷発行
著者:浅田次郎
双葉社


長編小説というより、やはり短編連作という方が正しい。
主人公が昭和30年代に経験した母の里である、霊山御嶽山神社にまつわる神様ファンタジー作品、どれもこれも怪しさいっぱいだ。
帯宣伝コピーにいみじくも記されてキーワード「切なさにほろりと涙が出る」は酷いものだ、「鉄道員(ぽっぽや)」の感動ふたたびの商魂と思い気にはしないが。
主人公にも備わっている見えないものを見る験力の遺伝子が本連作を支える和風ファンタジー結集編、「ぽっぽや」には及ばなかった。

◆神上(かむあが)りましし伯父
主人公の伯父が突然亡くなる、霊山武蔵御嶽山神官の伯父の死と葬祭にまつわる霊感を確信する出来事、連作の静かな立ち上がりが、かえって神の息吹を感じる。
◆兵隊宿
昭和30年代初め、伯父から聞いた主人公の祖母イツの若き日のエピソード。日露戦争末期に近衛師団砲兵隊が山岳訓練デ宿坊に泊まる。砲兵隊が被った二百三高地での悲劇と生き残った兵隊の心の入れ違い、人は死ねばみんな神になる。
◆天狗の嫁
1959年伊勢湾台風での父親の記憶、そこから思い出すいつも印象薄い伯母カムロ、幼い時天狗に攫われたこと、それ以来天狗の嫁としてひっそりと暮らしてきたが本当は美しい巫女だった・・・幼い主人公の淡い想い。
◆聖
主人公が小さい時もう一人の伯母(ちとせ)から聞かされた寝物語。喜善坊と称する山伏が御岳山で百か日満万行を強行するというエピソード。悲しい結末が、羨ましく感じられるのは凡人の僻みなのだろう。
◆見知らぬ少年
タイトルから予想した通り、主人公が幽霊に出逢うというエピソード、夏休みを御嶽山神社(母親の実家)で過ごしていたときに仲良くなった少年の正体は・・・? 主人公が自分に備わった験力に気づく。
◆宵宮の客
お待たせしました、どっと泣かせてくれるお話。本編もちとせ伯母の寝物語、御嶽山例大祭の前の晩に宿坊に訪い入れる一人の男の話。
浅田次郎劇場真骨頂である愛する者のために犠牲になる良き人たち、主人公の祖父、曾祖父の深い想いやりに、ただただ涙涙。
◆天井裏の春子
主人公の曽祖父が執り行った最後の「狐憑き祓い」一部始終、科学的見地からは計り知れない神からの験力を凌駕する人間力が最終話を美しく飾る。
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