哀れなるものたち POOR THINGS (2023/10/19)

文字数 1,128文字

2023年9月25日 発行
著者:アラスター・グレイ  訳:高橋和久
ハヤカワ文庫


シネマと小説には切り離すことのできない関係がある。
それは二つの芸術グループの確執とか協調という意味ではなく、ぼくの趣味としてのお話だけど。感動したシネマは原作が気になるのと同じように、お気に入りの小説が映像化されるのも気懸かりなことが多い。

今回は文字から映像の変換についてのノーマルな興味になる。
ただし 本書に関しては、少し事情が込み入っている。
ヴェネチア映画祭で金獅子賞になったというシネマが話題に上がった。
ぼくにとっては主演がご贔屓のエマ・ストーンさんくらいしか興味をひかれなかったし、原作「POOR THINGS」も著者アラスター・グレイも全く認識できなかった一方で、シネマ評価の第一番に挙げられたのが、原作だった。
「あの原作が映像化されるとは思いもつかなかった」・・・という言葉がぼくには響いた。

自分の無知は承知の上、早速AMAZONで原作をチェックしたところ、絶版状態で古書も希少価格で手を出す気にはなれないでいた。
ここでAMAZON再登場、かのシステムは有難い、というか恐ろしい。
原作シネマが金獅子賞に輝いたということで文庫版が再版された途端、チェック履歴に基づいてAMAZONから新刊紹介があった。
9月9日ベネチアで受賞、23日AMAZONから案内、24日予約注文、28日配送済・・・という迅速な手配だった。
つまるところ、シネマの風評だけで小説を手にしたというわけである。

本書は稀代の怪物本だった。
著者アラスター・グレイが古い自費出版本(1909年)を運命的に入手した所から本書は始まる、ドキュメンタリー紛い臭さ芬々の出だしだ。
医学博士の手になる「スコットランドの一公衆衛生官の若き日を彩るいくつかの挿話」が本書の大きな流れとなる、それは怪奇と驚きの一編、死体を蘇らせ脳を再生していくホラーなのだが、その実験対象が美しい人妻であり、成長するにつれ自由な精神を持つ女性戦士に進化するというストーリーが全体のほとんどになっている。
英国の階級社会を強烈に皮肉った展開とともにジェンダー問題をも軽々とこなす展開に、あれよあれよとついていくだけだった。
実は 物語は複層的に構築されているのだが、主人公である人造人間ベラの奔放な言動の惑わされて気づくこともなかった。

読み終えてみると、「註」に至って細やかに仕組まれた叙述トリックが背景に横たわっていた。
それも本当は何が真実なのか困惑してしまう類のトリックだった。

さて、こんな壮絶な物語をシネマに置き換えるという。
来年1月が今から楽しみだ、むろん原作とシネマには大きな谷やそびえたつ峰が立ちはだかっていることは承知の上でだけど。
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