土獏の花 (2015/1/20)

文字数 998文字

2014年9月20日第1刷  2015年1月15日第9刷
著者:月村了衛
幻冬舎



今話題のベストセラーだという…10万部突破。
宣伝コピーに曰く:自衛隊は何を守るために戦うのか?
自衛隊は人を殺せるのか?感動と興奮。今最も評判の号泣小説!・・・ときた。

新聞広告では:
秋元康 絶賛!「読み始めたら止まらなくなって、打ち合わせを二つ、キャンセルしてしまった。ぐいぐいひきこまれる。この小説は危険です。仕事や勉強、やらなくてはいけないことを片付けてからお読みください。

なんと、オレオレ詐欺でもこんな浮っついた殺し文句は恥ずかしくて使えないだろうと思うような文言が並ぶ。
幻冬舎は時折 羊頭狗肉戦略を行使することがる。
内容は一般受けするだけの凡庸なものだが、
宣伝とマーケティングで売り抜いてしまうことがある。
実はこのような図書をベストセラーと称する。

そんなことは重々わかっていたが最後にとうとう手にしてしまったのは
「戦争アクションマニア」のなせる業だった。

物語の概略は、ジブチに駐屯するソマリア海賊規制海自の警護役で海外派兵された
陸自第一空挺団が遭遇した民族浄化戦争のとばっちり。
カタキ役は、民族浄化を図る凶悪な部族とイスラム原理テロリスト、
ヒロインは絶滅される小民族のプリンセス、主役は空挺団の精鋭12名。
全編、各種戦闘シーンのオンパレード、マニアとしては使用銃器を含めてワクワクものだった。

ただし、それだけ。
宣伝コピーにあった「自衛隊は何を守るために戦うのか?」はすっかり遠くに追いやられ、
生き残るため、そして仲間のために敵を処理する(殺す)ことの連続だった。
信念なき戦いと批評することはできるが、実際の戦闘(殺し合い)はこんなものだろう。
ちらっと、アメリカの国際政治の暗闇が垣間見えるものの
それも単なるお愛想のような付け足しだった。

戦闘シーンの中には、なんのために戦い、死ぬのかというテーマを見事に訴えていた映画「プライベート・ライアン」によく似たシチュエイションが見られた。
または同じく映画「ブラックホーク・ダウン」にみられた闘いの虚しさも味付けされている。
自衛隊員の特攻精神(自己犠牲)がやけに多く、かつ大仰に描かれていて幻滅気味だったが
これも今時分の傾向なのだろう。

福井敏晴さんの自衛隊シリーズに比べると、能天気で晴れやかで、
お決まりの戦後の屈辱感などどこにも感じられない。

時代は確実に変化してきている。

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