東京ブラックアウト (2015/1/23)

文字数 1,186文字

2014年12月4日 第1刷発行
著者:若杉冽
講談社



話題になった「原発ホワイトアウト」の続編。
題名にある「ブラックアウト」には単に停電という意味以上の破壊的な衝撃が含まれている。

前作では再稼働した新潟の原発2基が北朝鮮工作員による送電鉄塔爆破により、
緊急停止しメルトダウン寸前のところまでだった。
今作では、三分の二まではこのメルトダウに至る別のエピソードが織り込まれ、
残り三分の一で一気にデザスターに突き進む。
フィクションと分かっていても広瀬隆著「ジョン・ウェインはなぜ死んだか」(1986)で
警告していた狭い国土での放射能汚染の恐怖がデジャブのように湧き起こってくるくる。

ちなみに、新潟で原発がメルトダウンして、関東圏(東京、埼玉、群馬、神奈川)が汚染される想定は、広瀬氏の指摘した核実験場の範囲からすれば、かなり控えめになっているし
都心から脱出する庶民の凄惨なパニックもさらりと描かれている。

実はその設定が本書の告発要点になっている。
関東地区を帰還困難区域(無法地帯)にし、京都に遷都、遷都費用を原発電力課税と
東京を世界の核廃棄物の中間貯蔵庫にして稼ぐという10年後のエピローグを付け加えたかったのだろう。
そしてこれほどの災害にあった後でも、電力業界と政界と官僚は日本のためではなく
我が身と所属する組織のために生き残ることを第一義とした種族であることを伝えたかったのだろう。

一方 別の頂点にあるエピソードが天皇陛下(今上)の国と民を思いやる言葉と行動だ。
「保守とは、日本の伝統と自然と日本人を守ることではないのか?」
と言って原発再稼働に疑問を投げかける。
最後には新潟原発事故の後の国会開催において、
再選された加部首相(笑い)の親任式を拒否し退位させられてしまう。
このように天皇陛下を正義の味方として使うのは禁じ手かもしれないが、
現実の今上天皇の言動からみて、そさほどかけ離れたフィクションと思えない。
白井聡氏の「永続敗戦論」(2013年)の中で戦後の日本民主主義を支えてきたのは
マッカーサー元帥と昭和天皇だったという鮮烈な指摘にも符合する展開になっている。
ところで、
山本太郎参議院議員が園遊会で天皇陛下へ直訴状を手渡した事件もタイムリーに組み入れられている。
山本議員はその後バッシングにあったことでも記憶に残っているが、
実は日本国民には平等に天皇への「請願権」が憲法で保障されていることを本書は教えてくれる。
その意味で山本太郎は不勉強だったが、本作の最終ページの最終行は次のようになっている:

今上天皇への請願の送付先: 
〒100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1 内閣官房総務官室
なんと、著者の狙いは実はここにあったのか!?

「原発ホワイトアウト」、「東京ブラックライト」と2作で著者は
日本の危うい現状を暴露してくれた。

さて、再稼働目前の川内原発は大丈夫だろうか?
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