緊急提言 パンデミック (2020/10/10)

文字数 1,659文字

2020年10月20日 初版印刷 10月30日初版発行
著者 ユヴァル・ノア・ハラリ Yuval Noah Harari 訳 柴田裕之
河出書房新書



本書帯の紹介コピーにもなっている「序文」が心に響く、以下引用・・・

《 私たちは2020年3月の時点よりも今のほうが、国際協力の必要性や、グローバルなリーダーシップの救いがたいまでの欠如、民衆扇動家や独裁者の危険性、監視テクノロジーの脅威を、なおいっそう痛感している。私たちが直面している最大の危険はウィルスではなく、人類が内に抱えた魔物たち、すなわち、憎悪と強欲と無知だ。だが・・・思いやりや気前の良さや叡智を生み出すような対応をも取りうる。・・・科学を信じるという選択をすることもできる。…みんなで協力する道を選ぶこともできる。…もしこうした建設的な形で反応すれば、目の前の危機に取り組むことがはるかに易しくなるだろう・・・。》

本書は今年3月から4月にかけ著者がメディアに掲載した記事3点とテレビインタビューを掲載している。著者のこれまでの大作に比べるとあまりにも薄っぺらい作品であるが、緊急提言と称しているだけに、簡潔でストレートな提言に、ステイホームでくすぶり続けていた僕の目を覚ましてくれる、パッチリと。
記事3点とインタビューは以下のような論点になっている:
●人類は新型コロナウィルスといかに闘うべきか / 今こそグローバルな信頼と団結を
●コロナ後の世界 / 今行う選択が今後長く続く変化を私たちにもたらす
●死に対する私たちの態度は変わるか? / 私たちは正しく考えるだろう
●緊急インタビュー 「パンデミックが変える世界」

ハラリさんはご承知の通り歴史学者であり医学や疫学の専門家ではない、だからこそ毎日の感染者や死者の数に惑わされることなく、人類が気付くべき大事な視点を気づかせてくれる・・・以下は僕が啓蒙されたであろう文章、ご参考までに。
■もしこの感染症の大流行が人間の間の不和と不信を募らせるなら、それはこのウィルスにとって最大の勝利となるだろう。人間同士が争えば、ウィルスは倍増する。対照的に、もしこの流行からより緊密な国際協力が生じれば、それは新型コロナウィルスに対する勝利だけではなく、将来 現れるあらゆる病原体に対しての勝利ともなることだろう。
■この政権は(アメリカトランプ政権)もっとも親密な盟友たちさえも見捨てた。アメリカが残した空白を埋める国が出てこなければ、今回の感染症の大流行に歯止めをかけるのがなおさら難しくなるばかりか、その負の遺産が、今後長い年月にわたって国際関係を毒し続けることだろう。とはいうものの、危機はみな好機でもある。グローバルな不和がもたらす深刻な危機に人類が気付く上で、現在の大流行が助けになることを私たちは願わずにはいられない。
■目下の危機のおかげで、人間の命や業績が儚いものであるという自覚を深める人は多いかもしれない。それでもなお、全体として見れば、現代文明がその逆方向に進むことはほぼ確実だ。脆弱さを思い知らされた現代文明は、いっそう守りを固めるという反応を示すだろう。今回の危機が過ぎ去ったとき、大学の哲学科の予算が目立って増えるとは思えない。だが、メディカルスクールや医療制度の予算はきっと大幅に増えるだろう。そして、それが神ならぬ人間に望みうる最善の展開なのかもしれない。いずれにしても政府は哲学があまり得意ではない。
哲学は政府の任務の埒外だ。したがって政府はなんとしても、より良い医療制度を構築することに専念するべきだ。そして、生の意義についてもっと考えるのは私たち一人ひとりの仕事となる。医師は私たちのために、人間の存在にまつわる哲学的な謎を解き明かすことはできない。
だが彼らは、私たちがそれに取り組むための時間を、あと少しばかり稼ぐことはできる。その時間で何をするかは、私たち次第なのだ。

歴史学・哲学の慧眼にすがることも今の僕には大切なことである。
(ちなみに著者は印税を放棄し出版社の寄付を援助している)
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