流  (2023/3/25)

文字数 581文字

2017年7月14日 第1刷発行
著者:東山彰良
講談社文庫



2015年直木賞作品であるが、著者近刊「怪物(2022)」の異様な小説作法に魅入られた結果、それでは著者代表作とやらにもお目にかかる必要があると思い立ち、遅ればせながらのご対面となった次第だ。

「怪物」のテーマとネガフィルムのように重なるのが、本作主人公の祖父が経験したという中国内戦下の集団殺戮事件であるが、さすがに本作は一般的小説の体裁を纏っているだけに、ミステリーとしての決着もそこから生じるカタルシスも異常なものはなく、あくまでも優れたフィクションの形をとっている。
むしろ、1970年代台湾に生きた若者の青春物語として僕は強く惹かれるものがあった。
中国本土からやってきた国民党と台湾人との共存と不信、中国の脅威、兵役義務、高校生活、不良との争い、そして欠かすことのできない初恋・・・台湾グラフィティだった。

小説の醍醐味である、自分の知ることのできない文化に接する興奮を本書はたっぷりと用意してくれている。幼年期に日本の移り住み、台湾に行き来し、日本と台湾の事情に通じている著者ならではの仕掛けもさることながら、
国家を信頼できないといいながら故郷に執着する人間の素直な感情、それは中国も台湾も日本も変わるものではないことが本作の底に脈打っていた。

「流」と「怪物」、小説家の表と裏を覗く面白さを発見した。
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