我らが少女A (2019/8/4)

文字数 893文字

2019年7月30日 発行
著者:髙村薫
毎日新聞出版



警視庁刑事 合田雄一郎シリーズとして6作目、
「マークスの山(1993年)」、「照柿 (1994年)」、「レディ・ジョーカー(1997年)」、「太陽を曳く馬(2009年)」、「冷血(2012年)」、
30年近いロングランシリーズが7年ぶりに戻ってきた。

警察小説の形を取ってはいるが、犯罪者の内面に深く入り込んでいく小説作法は哲学的な重みを毎作積み重ねてきている。
三作目からはシリーズ主人公の合田刑事の捜査活動すら描かれない傾向を強め、ますます高村文学の高みを目指している。
見方を逆転させると、クライム小説ジャンルと分類できなくもないが、「マークスの山」での合田刑事の緻密な捜査方針に魅了された僕には、ほんの一場面でも合田刑事が登場することに快感と安堵を覚える。

今作は、12年前の未解決事件に当時の捜査責任者だった合田刑事が、悔恨を抱きしめて眺める…という形式になっている。
そう、本作で合田は警視となり、警察大学に出向して教授となっているのだが、未解決事件があるきっかけで再浮上し、否応なしにというか、生来の捜査官魂に引き戻される。

繰り返しになるが、本作でも警察捜査活動よりも事件の関係者たちの生活、悩み、怒り、好悪意が小説の主体になっている、それもますます尖鋭化している。
一時の「太陽を曳く馬」であったような抽象的、観念的な言い回しは払しょくされているが、
一方では一般庶民に巣食う不条理、心の奥の闇、そして救いの灯が繰り返し繰り返し様々な角度から考察される。
殺人被害者の退職美術教師とその家族(娘夫婦、孫娘)、孫娘の友人たち(援交女学生、精神障害者、スポーツマッチョ、サイコイケメン)、
12年前の未解決事件が当時の女子高生だった女の死亡により、大きく動き出す。

12年前に何が起きたのか、ひとつひとつ思い出される新しい事実とともに、事件関係者たちの12年後も怪しく動き出す。
高村薫作品 最高傑作との宣伝コピーに、心から納得した。

合田警視、57歳、出向から警視庁に戻る、さて次回はそろそろ集大成の事件が待っているのだろうか?  楽しみなことだ。
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