インドラネット (2021/8/10)

文字数 976文字

2021年5月28日 初版発行 
著者:桐野夏生
角川書店



イントラネットのインド版か? と思ったりした、大バカ者の自分だった。
正しくは「因陀羅網」のことであり、
浄土宗大辞典によると、
《インドラ(帝釈天)の網。Ⓢindra-jāla。因陀羅珠網、帝網ともいう。帝釈天宮に荘厳されている宝網をいう。その各々の結び目には宝珠があり、それが互いに映し出され、その映し出された
宝珠がさらに他の宝珠に映し出されるという無限の関係性について、仏教では世界の多くの物は重重無尽に関係し合っていることに喩える。》
との説明を読書後に勉強した次第である。

日頃から念仏衆生を自負し毎晩阿弥陀経を唱えている自分を深く反省したが、
おかげさまで、ひとつ新しい知識を得ることができた、読書に桐野さんに感謝した。

とはいっても、本物語はそんな宗教臭さとはまるで関係のない軽めのサスペンスアクション、
カンボジアを舞台にし観光エッセンスも盛り込んだロードジャンル小説のため、ディテイルなどは読み飛ばすしかないところも多かったのは仕方がないところだろう。
事件の発端は、主人公の高校時代の親友が失踪したこと、それも彼の姉妹2人ともにという謎からスタートする。
この主人公は桐野ワールドでは典型的なダメ男として認定されるような、ぐうたら・僻み・妬み・中傷を具現化した若者、怪しげな筋から、親友の所在を探って欲しいと頼まれると、観光旅行でもしてお茶を濁すか・・・というくらいの人間だ。
この辺りの設定は、僕には受け入れ難いのだが、現代の若者はこのくらいいい加減なものなのか?とも思う。
そんなどうしようもない、桐野さん得意のダメ男が、親友を探し出す旅の中で少しづつ成長する、というかまともになっていく。

バックパッカーの実情、カンボジアでの中国進出、振り込め詐欺の拠点、富の格差などなど、現代世界のトピックスも盛り込まれているが、所詮未知の国カンボジアでのサスペンスアクションに、僕は白けているばかりだった。
と思っていたら、最期のシークエンスで思い切り心を揺さぶられる、突然に。
どんでん返しという筋立てではない、まさにそこに「インドラネット 帝釈天の綱」が現れていた。
結び目の宝珠が光り輝き、他の宝珠と共鳴する・・・それがたとえ悪の宝珠であろうとも。
最後は桐野さんらしい、ハードボイルドな展開にて一件落着だった。
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