忘れられた巨人 (2015/6/19)

文字数 673文字

2015年4月25日 初版発行
著者:カズオ・イシグロ
早川書房



長編7作目、前作から10年が経っての新作は、アーサー王伝説が散りばめられたファンタジー形式のラブストーリーでした。
そのラブストーリーの主役は、しかしながら、若き頃の愛の記憶を失った老夫婦です。
今は毎日の記憶さえ定かにならないが、それでも互いに慈しみ合う老夫婦が過去の記憶をとり戻そうと旅に出る物語です。

その旅の果てには、記憶を盗み取ってしまうとうわさされる雌竜クエリグとの対決が待ち受けています。
クエリグを討つ使命を帯びて老夫婦に同行するのが、若きサクソン戦士、アーサー王円卓の騎士ガウェイン卿、そしてエリグに共鳴する謎の少年です。
鬼や妖怪獣、黒魔術が登場して、まるでロード・オブ・ザ・リングのような おどろおどろしい世界が展開されます。
近年、カズオ・イシグロは意表をつく物語設定で僕を驚かせ、楽しませてくれています。
前作「わたしを離さないで」はディストピアSFでした、
それ以前も、探偵小説、カフカ的不条理小説、オールドファッションの英国カントリーライフがありました。
最初の2作は、日本を舞台にしたオリエンタルテイストでした。

つまりは、カズオ・イシグロにとって、小説のスタイルは道具にしかすぎないのでしょう。
僕は彼が描く「愛の形」に魅かれて仕方がありません、それは時代を厳しく優しく描いてくれています。
今作品は、カズオ・イシグロの夫婦愛の形、それも老境における夫婦の問題と昇華を見せてくれました。
彼の作品は、タイプが異なりすぎて優劣が付けられませんが、
本作はもっとも好ましい秀作でした。
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