ハンニバル戦争 (2019/8/12)

文字数 1,052文字

2019年1月25日 初版発行
著者:佐藤賢一
中公文庫



佐藤賢一さんの歴史小説は久しぶりだ、かって歴史物語が一時ブームになった折に僕も手を出したことがある。ただ、歴史事実に基づいたフィクションというのがどうにも薄っぺらい感じぬぐえず、気持ちが乗ってこなかった記憶がある。
先日 毎日新聞書評で本作を知り、そんなことを思い出しながら、そうはいっても面白そうだな・・・と再び手に取った。

今作のテーマは 「第二ポエニ戦役」いわゆるハンニバル戦争だけども、物語の主役はブブリウス・コルネリウス・スキピオ(大スキピオ)になっている。
あの戦の神と称せられたハンニバルが主役ではない、この設定は佐藤アチャラカ小説の常道でもあるが、スキピオの名前など歴史の教科書でしか知らない僕にはこれが強烈に新鮮だった。
逆に ハンニバルに関してはヴィクター・マチュアが演じたシネマ「ハンニバル(1959年)」の記憶が今でも強く残っているのもおかしなものである。

ハンニバルといえば 象を引き連れてのアルプス越えという奇襲戦法が有名であるが、本作ではローマ(共和制)に対する遺恨の戦いぶりが、余すところなく詳細に記されているのは、さすが歴史小説の面目躍如たるところである。
第一次ポエニ戦役終了から、第二次ポエニ戦役のクライマックスである「ザマの戦い」まで、イタリアからスペインそして北アフリカ(カルタゴ)に及ぶハンニバルとスキピオの戦いの一部始終を面白いと感じるか、退屈と思ってしまうか?
少なくともこれらの戦いの詳細は史実(とされている)に基づいている、著者の研究探求心に敬意を表すところである。

全編、スキピオの一人称で書かれているのは、良し悪しは別としても読み手である僕には親近感をもたらす、まるで青春高校生物語のようでもあった。
名門の誉れ高いスキピオであるが、貴族の常として武勇に優れているわけでもなく、どちらかというと政治に長けている。
ハンニバルとの戦いに徹底的に敗れ去るローマ軍、父、叔父、義父をハンニバルに殺される中で、大スキピオが考えた対抗策とは??

「敵に学ぶ」という破れかぶれの、それでいて永遠の真理を含む方策にたどり着くスキピオは、もしかして現代競争社会においても学ぶべき人物だったのか。
ハンニバルが天才であったなら、凡人のスキピオがハンニバルに打ち勝つための心構えと実行力とは何だったのか。
遠く紀元前3世紀から2世紀にかけて競い合った、二人の偉大なる指導者を身近に感じることができる、佐藤歴史小説の醍醐味にしばし酔いしれた。。

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