蜜蜂と遠雷 (2017/4/19)

文字数 1,119文字

2016年9月20日 第1刷発行、2017年4月5日 第11刷発行
恩田陸
幻冬舎



恩田さんご自身が「私の集大成」とコメントしていた本作品を手に取るのを躊躇し続けていた。
そして直木賞に続いて本屋大賞ダブル受賞(本屋大賞はそれも2回目)という快挙(?)にようやく入手した、すでに11刷になっていた。
なぜ読み始めなかったという大きな理由が二つある、それも単なる言いがかりのような理由、
つまりは一人で拗ねていたみたいだった。

ひとつの理由は、本作のプロットを知るにつけその感動がたやすく予想できたから、若者の努力物語に僕はめっぽう弱い。
もう一つの理由は、舞台がピアノコンクールという安直な設定もさることながら、ピアノ演奏を文字で聴く?ことに違和感があった、
今にすれば大きな勘違いだったが。

恩田さんは多作作家だ、「夜のピクニック(2004)」で出会った後、僕は彼女の処女作品「六番目の小夜子(1992)」から順番にお浚いしていった。
前述のとおり、若者・学園物語には特に弱い性向から恩田さんにどんどん嵌まっていったのはごくごく自然な成り行きだった。
長編も短編集も魅力満載、学園ジャンルのみならずSF,ファンタジー、伝奇など幅広くそして数多かった。

どこかで僕は恩田さんを追いかけるのに疲れてしまったみたいだった、そんな折の「集大成作品」宣言に僕の反応は鈍かった。
先日 本屋大賞受賞を知って素直に読み始め僕は彼女の宣言に納得した、
集大成と言いうにはちょっと悲しいが(これで終わりになってほしくないから)少なくとも恩田ワールドベストコレクションのひとつには違いなかった。

本作は、あくどいほどに読者を感動させるテクニックが網羅され、その完成度が高いため、わかっていても抵抗することができない。
音楽の神からの天賦が3人の若者に降り注ぎ、ピアノコンクールでその才能を羽ばたかせることに集中する恩田さん。
そこには、醜い争いや政治的な駆け引きや卑屈な感情は一切描かれない、音楽に魅入られた善き人ばかりが登場する。
このピアノコンクールでのピアノ演奏の描写が小説のほとんど、場面転換の妙など小細工もなかった。
ピアノ演奏描写に対する危惧は、演奏曲を文字で表現するという高難度な試みを前にして吹き飛んでしまった。
それも3人の若者の心内が、プロコフィエフ、バルトーク、ブラームス、ショパン、リストの名曲と化学反応していく様がヴィジュアル化されていく。
この小説作法には、間違いなく恩田さんご自身のピアノ曲への想いが込められている、作家として腕の見せ所だった。

僕はといえば、登場する名曲の数々への無知にもかかわらず、不遜にも音楽の真実を垣間見た思いになった。
恩田小説の集大成、納得した。
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