デンマークに死す A DEATH IN DENMRK (2023/12/25)

文字数 1,005文字

2023年8月20日発行 第1刷
著者:アムリヤ・マラディ  訳:棚橋志行
ハーパーBOOKS



デンマークの心優しくハードボイルドな私立探偵物語という触れ込みだった。
私立探偵小説は世界各国において何世代にわたって書き継がれてきた由緒正しい文化遺産と言ってもいい、そんな私立探偵世紀はもはや終わりを迎えて久しいものよ・・・と思っていたところにデンマークの街に希望の灯を見つけた気持になって内心では心躍らせながら拝読した。

ここで私立探偵小説の歴史や蘊蓄を述べても詮無いことである。
ずばり、本作はボストンの探偵スペンサーシリーズのハートを受け継いでいた。
テーマは北欧で直近大問題になってきた「移民」、そのホットな関心にこれまた永遠の悪と言われるナチスが関わるという、ありきたりを超えたトレンディ犯罪ストーリーに仕上がっている。

主人公ゲーブリエルは元デンマーク市警刑事41歳、別れたパートナーの旦那の弁護士事務所で調査の仕事を生業としている。
20歳の娘は父親以上に正義感が強いよき理解者(この辺りはボッシュシリーズかも)、最愛の美女との別離がトラウマとなり今は女性と本気で付き合うことができないが、それでももてるのは、ハードボイルドな生き方もさることながら、ハイ・ファッションを身に纏い、住まいの改築を趣味にするロマンチックな性向にもあるようだ、小説の中に毎日の洋服がブランドはじめ事細かく説明される・・嫌いではないスタイルだし、この辺りはスペンサー探偵が蘇ったものよと嬉しくすら思った。

スペンサーにホークという強力な相棒がいたように、ゲーブリエルにも裏社会の助っ人ブーアがいて、スペンサー&スーザンという永遠のカップルも前述の別れた恋人レイラとの復活が物語の背景に埋め込まれている。
デンマークの美味しい食事処とビール、カクテル、ワイン描写もスペンサーシリーズを思い出させる。

メインの犯人捜しの詳細は当然ネタバレしないが、スケールの大きな展開になっているのが現実感との乖離があって不満だった、とはいえフィクションの嘘は大きいほど魅力的でもある。
移民の親友夫婦、その父親が政界の顔役、市警の元上司との信頼、女性記者との腐れ縁・・・などなど登場人物が多彩なのは、これからのシリーズ展開に欠かせない要素でもある。

著者はインド生まれ、デンマーク人と結婚しアメリカ、デンマークでの生活も長い女性作家、シリーズ第二作を楽しみにしている。
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